2020年6月26日

自分の髪を抜いてしまう子ども

先日「自分の髪を抜いてしまう子どもが親に発しているSOSの正体」という記事を読みました。臨床心理士の田中茂樹さんが書かれた本「子どもが幸せになることば」を紹介する記事でした。

私は「自分の髪を抜いてしまう子ども」というフレーズには敏感なんです。何故なら、それがうちの娘が発した最初のSOSだったからです。

うちの娘は、元気いっぱいの明るい子でしたが、吃音のせいで幼い頃から人前で話すのが苦手でした。思いやりのある優しい子で、一生忘れない思い出の一つに、娘がまだ6歳だった時のことですが、「うつ」で苦しむお母さんを励まそうと、夕方仕事から帰宅した夫に頼んでケーキ屋に連れて行ってもらい、私の大好物だと知っていたモンブランケーキを買ってきてくれたことがありました。

すでに外は暗くなっていた夕方、二人が出かけていたことにも気づかずにいた私は、娘が買ってきてくれたケーキも嬉しかったけど、ケーキを買って励ましたいと思った幼い娘の優しさに涙が出ました。

ケーキ屋の場所を知らない夫に、6歳の娘が道を教えたそうです。「モンブランケーキはお母さんの一番好きなケーキなんだよ」と以前私が言ったその一言を娘は覚えていたのです。そして、あるケーキ屋さんで娘はモンブランケーキを見たことがあったのです。

娘はそういう子でした。

頑固であると同時に辛抱強いという長所もあり、女の子だということもあって私は精神的に頼りにしていました。

別な言葉で言えば、あらゆる愚痴を娘に対してこぼしていたのです。

長年ほとんど夫が家にいない母子家庭のような暮らしでしたし、オーストラリアでは愚痴を聞いてもらえる人がいませんでした。

夫の事業がうまく行かなくなり、経済的に困窮し始め、まるで現実逃避のようにコミュニティー奉仕活動に熱中して家庭を顧みない夫に不満は募り、私は不安と不満をまだ小学生の娘に聞いてもらっていました。

そんなある日、娘の部屋を掃除していて髪の毛がたくさんカーペットに落ちていることに気づきました。その時、娘は5年生くらいでした。私はまだそのSOSの深刻さに気づいていませんでした。

バレエを習っていた娘の髪の毛を結う時に、髪の毛が減ってきたことに気づきました。髪の毛を抜いていることについて娘と話し合いましたが、自分でも気づかないうちに抜いてしまうんだと言いました。

そんなある日、私は娘の部屋で大量の髪の毛を発見し、息が止まりそうになりました。その大量の髪の毛が「自分は今とても苦しい」と娘が発しているSOSだと分かったからです。

すぐに医者に相談し、紹介された子供専門の心理カウンセラー Kirsten Chalmers さん(MyTurn2Talk)との出会いが、回復へのスタートとなりました。

娘の「抜毛症」はカウンセリングのおかげですっかり良くなり、小学校を卒業する頃には回復しました。

ところが、その後、我が家の経済状態はさらに悪化して、食べていくこともできなくなったのです。夫はうつ状態で毎日寝続けるようになり、私は不眠が悪化しました。

義妹が経済的に支援して助けくれたことはこのブログでも度々書いてきましたが、義妹は娘がバレエを続けることも支援してくれていました。

でも、娘はバレエをやめました。楽しくないからやめたいと娘が言ったからやめたのですが、本当の理由は分かりません。

経済的に困窮しただけでなく、家族の関係もおかしくなりました。中学生だった息子は毎日暗い顔をしていました。インターネットの使い過ぎを夫に激しく責められて、家出をしたこともありました。全てが最悪の状態でした。

そんな中でも、娘は母親の私を支えてくれ、兄である息子の話も聞いてやり、父親のことも心配する、家族の潤滑剤のような存在だったと思います。

辛抱強く、欲しい物があっても我慢し、親に迷惑や心配をかけまいと頑張る娘は、家族の苦しみやストレスを吸い取っていたのでしょう。

家賃が安い小さな古い家に引っ越していた私達でしたが、義妹の援助で大きな家に引っ越しました。知り合いのいない知らない場所に住むことになり、子供達が通っていたハイスクールは遠くなり、バス通学が必要となりました。生活環境が大きく変化しました。

敏感な年齢になっていた娘が、自分が同性愛者だと気づいたのはその頃でした。

娘は食べ物が食べられなくなりました。

自分を傷つける行為も始めましたし、ナイフを手にして自分を殺しそうだと訴えてきたこともありました。

カウンセリングと薬による治療で「拒食症」と「自傷行為」から回復した後は、パニック発作が起きるようになって家から出られなくなりました。

辛く苦しい日々が長く続きましたけど、娘は昨年メルボルン大学の学士課程を終え、現在は修士課程前の段階で心理学を勉強しているわけです。

家の中で次々に起きるドラマを黙って見ていた息子も、相当なストレスを感じていたはずです。娘の治療費のために苦しい家計をやりくりして苦労している親を見て、高校生の頃から苦しんでいたお尻の問題を誰にも言わずに耐えてきたというのは、かわいそうなことをしたと思っています。

息子はいまだに仕事をしていません。いわゆる引きこもりのような暮らしが続いていますが、絵を描くことだけは続けています。本人のやる気を信じて、自分から行動を起こすのを待っている状況です。

この記事をお読みのお父さんお母さん、お子さんが発するSOSに気づいたら、一番大事なことは完全に受け入れて肯定してやることですよ。「しんどかったんだね」とまず共感してやることが重要で、怒ったり、ああしたらこうしたらと提案することは助けになりません。

私は、娘に愚痴をこぼし続けたことやイライラして怒鳴りつけたりしたこと、お金のことを心配させて悪かったということ、いろいろなことを謝りました。

そして「どんなことがあってもお母さんはあなたを助ける」と伝えました。

家から出る練習には、大学まで一人で通えるようになるまで付き添い続けました。本当に大変でしたけど、それをしないという選択肢はなかったです。

あと、お父さんお母さん自身がカウンセリングを受ける必要があるかもしれません。私は娘と一緒に受けたカウンセリングで、Chalmers さんから叱られたことで目が覚めました。

全てのカウンセラーがみんな素晴らしいわけではありませんよ。この人はダメだというカウンセラーがいますからね、ダメだと思ったら他を探してください。


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