私達家族は、現在住んでいる家に引っ越してくる前の10年間は、山の中の家に住んでいたんですが、その隣りの家に住んでいたのがテイラーさん夫婦です。旦那さんのドンさんは高校の数学の先生をされていたそうで、奥さんのミリアムさんは小学校の先生でした。現在はお二人とも80代です。
テイラーさんの家と私達が住んでいた家は、フェンスを挟んですぐ隣りでしたが、訪問し合うにはお互い一旦道路まで出なくてはいけなくて、それぞれ家から道路まで距離があったので、坂道をかなり歩かなくてはいけませんでした。
それでも、ドンさんはしょっちゅう私達の家にやって来ました。釣りが趣味のドンさんは大きなボートを持っていて、よく息子さん達と海に釣りに行っていたのですが、釣って来た魚を私達にくださるのです。自分でちゃんと切り身にしたのを持って来てくださるので、私は嬉しかったです。
魚だけではなく、庭で採れた果物や野菜も良く持って来てくださいました。グレープフルーツだけはいらないと何度も断ったのに、「誰ももらってくれないから食べてくれ」と言って持って来られるので困りました。
ドンさんは、心の底から親切な方です。
うちの娘がハイスクールの時に、数学で困っていると聞いた時は教えに来てくださいました。1回教えてもらって分からなかったことが理解できた娘は、試験で良い成績が取れました。
私が回転する目まいで倒れて救急車を呼んだ時には、懐中電灯を持って家の外を走るうちの夫に気づいて事情を聞いてくださって、雨が降る中、道路脇に立って救急車が来るのを待ち、家まで誘導してくだいました。
うちの夫の目の病気を知った時も、夫がうつ状態になって苦しんでいた時も、本当にいろいろと気遣ってくださいました。夫のことだけでなくて、私のことを気遣ってくださるので本当に有難かったです。
私がテイラーさん夫婦に最後に会ったのは、うちの夫の父親の「80歳の誕生日パーティー」でした。今年の6月のことです。私達が住んでいた家には、現在は夫の父親と中国人の奥さんが住んでいて、夫の父親とドンさんは良い友人になっているそうなんです。
パーティーで久しぶりに会ったドンさんは、とても痩せていました。そして、顔色が黄色い灰色だったので、私は肝臓が悪いのではないかと思ったのですけど、ドンさんは自分は健康だし、痩せたのは膝が痛むからダイエットをして体重を落としたのだと言っていたんですが。
先日、ドンさんが血液のがんだと聞きました。がん細胞が蓄積した肝臓は、もはや手の施しようがない状態なんだそうです。やはり肝臓が悪かったのだと思いました。
うちの夫の話によると、ドンさんは持ち物の整理を始めたそうです。そして、ジェネレーター(発電機)が故障していることが分かって、2週間ほど前ですが、うちの夫に修理を頼んだのです。夫とドンさんは道具を貸したり借りたりする仲でしたし、夫が機械の修理が得意なことも知っているのです。
夫は頼まれてすぐに修理にしに行きましたが、部品がないと直せなかったそうです。注文していた部品が届いたので、昨日の朝、もう一度修理をしに行きました。ジェネレーターはすぐに直ったそうです。「ドンさんの様子はどうだった?」と私が聞くと、「元気そうだったけど弱って来ている」と夫は言いました。
そして、昨日は息子さんが来られていたそうです。お父さんのドンさんと釣りに行くんだとおっしゃったそうです。「For one last time」(最後にもう一度)とおっしゃったそうです。昨日は暖かくて穏やかな天気でしたから、父と息子で釣りを楽しまれたはずです。
夫は、修理のお礼に庭で採れたオレンジを袋いっぱいもらって帰りました。毎年ドンさんにもらって食べていたオレンジです。小ぶりですが味の濃い美味しいオレンジなんです。
そのオレンジを食べながら、私はいろんなことを思い出しました。よい思い出しかありません。
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