2024年8月25日

メンタルヘルスとスティグマ

オーストラリアで日本のNHKに相当するのがABC(Australian Broadcasting Corporation)です。放送受信料の支払いなんていうものが無いという違いはありますけどね。

朝6時から始まるABCのニュース&トーク番組「The Breakfast Couch」というのがあるんです。男性キャスターのマイケル・ローランドさんは「いい人だ」というのが画面から伝わって来る方ですが、先日うちの娘がアルバイトをしているレストランにいらっしゃいまして、娘が「あの人は本物のジェントルマンだ」と言っていましたよ。

女性キャスターのリサ・ミラーさんは、若手リポーターだった頃からマイケル・ローランドさんとは友達だったという方で、海外特派員なども務められた方です。先週の金曜日をもってこの番組を降板されましたので、明日からは別の女性キャスターが加わることになっています。

この番組で天気予報を担当するネイト・バーンさん(Nate Byrne)という方がいらっしゃるんですけど、先日この方に起きた出来事が日本の新聞にも載っているのを見ました。

ネイト・バーンさんはオーストラリア海軍に12年間勤務された方で、もちろん気象局で訓練を受けた気象予報士でいらっしゃいます。同性愛者であることを公表しておられて、SNSなどでは誹謗中傷を受けることも珍しくない方なんですけど。

このバーンさんが、先々週の生放送中にパニック発作を起こしたんですよ。天気予報を伝えていた時、突然「ちょっとストップする必要があるみたいです」と切り出して、カメラに向かってこう言いました。

「私が時々パニック発作を起こすことを知っている方もいるでしょうが、今まさにそれが起きているんです」

バーンさんは「リサ、後をお願いします」とおっしゃって、カメラはすぐにリサ・ミラーさんに切り替わりました。

ミラーさんは全く落ち着いた様子で「もちろん大丈夫ですよ」と答え、バーンさんが自身のパニック発作について書いた記事がABCのウェブサイトで読めることなども紹介し、天気予報はマイケル・ローランドさんが代わりに伝えました。

少し休んで発作から回復したバーンさんが席に戻り、「皆さんを驚かせてしまったらごめんなさい」と謝りましたが、ミラーさんは「パニック発作は誰にでも起こりうるということを人々に知ってもらうことは素晴らしいことです」と、バーンさんがこの問題を公表してオープンにして来たことを称賛したという出来事でした。


ネイト・バーンさんが最初のパニック発作を起こしたのは、2018年だそうです。その時の動画がABCのウェブサイトに載っています。交代して天気予報を伝えたローランドさんの動画も載っています。

この日はリサ・ミラーさんとは別の女性キャスターが司会をしていましたが、「ウェザーマンがアンダーウェザーなのでマイケルが代わりに天気予報をお伝えします」とジョークを交えて伝えました。

「ウェザーマン」というのは天気予報士のこと、「アンダーウェザー」というのは体調が悪いという意味です。

ネイト・バーンさんは2020年にも生放送中にパニック発作を起こしています。この時の動画のバーンさんは明らかに具合が悪そうです。似たような経験をされたことがある方は、この動画を見るのは注意して下さい。

その後、バーンさんはパニック発作や不安症についての記事を書き、病気のことをオープンにすることで病気の啓発に取り組んで来られましたから、ABCはバーンさんの記事だけでなく生放送中にパニック発作を起こすバーンさんの動画もウェブサイトに載せているのです。

当然番組のスタッフはバーンさんの問題を知っていました。こうした理解のお陰で先々週のような対応が出来たわけですけど、パニック発作はいつ誰に起きても不思議ではないことなんですよ。

パニック障害は100人に1人がなると言われている病気です。この病気で苦労している人は多いのに、職場の人々に理解してもらえなくてつらい思いをしている人も大勢いるわけです。


メンタルヘルスの問題には「スティグマ」という問題がつきまといます。スティグマというのは「ネガティブなレッテル」のことで、偏見とか差別と関係しています。

精神的な病気、エイズ(HIV)などの特定の病気、性指向や性認識にかかわる人の特徴(LGBTQI+)、障害などに対して、否定的な意味づけをされたり不当な扱いをうけたりすることです。

精神的な病気については、おおやけに話をすることをためらうような風潮がいまだに存在します。精神的な病気になることがまるで恥ずかしいことのように考える人達もいます。それもスティグマです。

上記のネイト・バーンさんの出来事が起きた日に、オーストラリアで大変人気のあるキャリー・ビックモアさん(Carrie Bickmore)という方が、20年間もパニック発作と不安症に苦しんで来たことをラジオ番組で初めて公表されました。

ビックモアさんがもっと早くに公表できていたら良かったのでしょうけど、公表できるかどうかは職場のメンタルヘルスに対する理解度や仕事の内容にもよるでしょうし、ビックモアさん自身がこの問題を恥ずかしいことのように感じていたそうです。

スティグマを減らすために最も効果的だとされるのは、当事者に会って交流することだと言われていますよね。そのためにも、精神的な病気に苦しむ当事者はもっとオープンに話題にするべきなんですよ。

テレビ番組に出演するような方がオープンにすることは大きな意味があるし、ネイト・バーンさんの生放送中の発作にABCのスタッフがポジティブに対応する様子を見せたことは、スティグマを減らす上でも素晴らしいことでした。

とにかく皆さん、メンタルヘルスのことはもっとオープンに話題にしましょうよ。

誰だって病気になるし怪我もするでしょ?心が怪我をしたり病気になったりするのも当たり前なんですよ。心の病気というのは脳の調子が悪くなっているということで、恥ずかしいことでも何でもないんですからね。


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