2021年1月23日

建国の日か侵略の日か

「オーストラリア・デー(Australia Day)」が近づいてきました。

「オーストラリア・デー」は、建国記念日のようなものですが、毎年1月26日と決まっています。なぜ1月26日かというと、1788年の1月26日に英国からの第一船団(First Fleetと呼ばれる)がポート・ジャクソン湾に到着した日だからです。

多くのオーストラリア人にとって、「オーストラリア・デー」は家族や友人が集まってBBQを楽しむ日という程度に考えられており、スーパーなどではオーストラリアの国旗がデザインされた各種BBQおよびアウトドア商品が売られ、肉やソーセージのCMが話題になるのですけど。

近年ちょっと様子が変わってきています。

この日を「オーストラリア・デー」とすることに反対する人々が増えているのです。先住民族アボリジニの人々にとって、1月26日は「侵略の日」だからです。この日に英国の植民が始まったことにより、彼らの悲劇も始まったのです。

初期の入植者の多くが流刑囚だったことはよく知られていますが、オーストラリアへの入植者は急激に増えていきました。彼らが開拓した土地には、アボリジニが住んでいたわけですから、当然争いが起きます。

入植の初期には、アボリジニを捕獲・殺害する権利が法律で認められていて、まるでキツネやウサギを殺すようにアボリジニが虐殺されました。タスマニアでは全滅しました。

後になって、保護政策に名を借りた強制移住がおこなわれました。東海岸沿岸部の豊かな地域に居住していたアボリジニは、白人との衝突を避けるために遠く離れた内陸部の不毛の乾燥地域に追いやられました。

アボリジニの子供を「進んだ文化」の元で育て、イギリス式の教育を受けさせるとの建前で実施された恐るべき政策もありました。この政策では、10万人ものアボリジニの子供達が親から引き離されて、多くは強制収容所や孤児院など監獄のような環境の施設に送られました。そこで虐待を受けた子供も多かったのです。

こうした悲劇の始まりの日を「オーストラリア・デー」として国民が祝うことに反対する人達は、毎年この日に集会を開いて、日付の変更を求めてきました。

この運動が年々大きくなって、最近では全国各地で大規模な反対集会が開かれるようになっているのです。集会に参加する人達は、アボリジニの人達だけではありません。世論調査によると今や国民の半数以上が、「オーストラリア・デー」の日付を変更した方が良いと考えているそうです。

アボリジニの皆さんの痛みは、容易に理解できますよね。

自分たちの祖先が殺戮され、迫害され、土地を奪われた、苦難の歴史が始まった日を、自分達の国の始まりの日だと祝うことなんてできませんよ。

「オーストラリア・デー」の日付の変更とともに議論されてきたのがオーストラリア国歌「Advance Australia Fair」の歌詞です。歌詞の一節に「For we are young and free」という部分があるのですが、アボリジニは何万年も前からこの大陸に住んでいたわけですから、オーストラリアを若い国と認識することに抵抗があるわけです。

この歌詞は、今年1月1日から「For we are one and free」変更されました。

「オーストラリア・デー」の日付の変更に関する議論は、年々盛り上がってきていますし、世論もそれを支持していることから、いずれは変更するしか無いだろうと思います。私は、オーストラリアの白豪主義(白人至上主義)が廃止され多文化主義に転換した日、すなわち人種差別禁止法が制定された日が建国の日にはふさわしいのではないかと思うんですけど。

あるいは、1月26日の「オーストラリア・デー」という名前を「侵略の日」に変えて、この日はお祝いをするんじゃあなくて過去の悲劇や政策の過ちなどを振り返り、反省する日にするとか。

反対集会は年々大規模化していて、近年は何万人もの人が集まるようになっています。今年の「オーストラリア・デー」にも反対集会は計画されているそうですが、今はとにかく新型コロナの問題がありまして、大規模集会は違法です。集会には参加しないでくださいと連邦政府も州政府も呼びかけていますが、どうなるのでしょうか。


オーストラリアでは、全国的に新型コロナの市中感染者は、ほとんど出ていません。新たに見つかる感染者は帰国者あるいは渡航者がほとんどです。

ヴィクトリア州は何ヶ月も海外在住のヴィクトリア州民の帰国を受け入れませんでした。やっと先月受け入れが再開されましたが、まだまだ多くのヴィクトリア州民が帰国できずに困っているそうです。

それなのに、テニスの全豪オープンに参加する選手やその関係者を大量に受け入れて隔離施設であるホテルを利用させていることに、批判が出ています。

2週間の隔離中、選手たちは毎日決められた時間は外に出て練習ができるということだったそうですが、渡航便に感染者が何人も見つかっておりますので、選手たちは外出禁止となって練習ができないため、不満が噴出しているそうですが。

こうした処置に対して、ヴィクトリア州政府を激しく批判していた選手の一人は、先日症状が出て新型コロナに感染していたことが分かりました。渡航前検査では陰性だったはず。どこで感染ったんでしょうね。

テニスの選手だろうとハリウッドの映画スターであろうと、検査や隔離に関しては一般市民と同じルールでちゃんとやってもらわないと困ります。


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