2021年1月24日

アメリカ国歌の歌詞

先日、米国のワシントンでジョー・バイデン氏の大統領就任式がおこなわれ、レディーガガが米国国歌「Star Spangled Banner(星条旗)」を歌いましたね。私は感動して涙が出ました。

レディーガガの歌唱も力強くて素晴らしかったですけど、議事堂乱入事件で象徴されるトランプ禍が終わったという背景や「民主主義は守られた」という喜びも手伝って、より感動的だったと思います。

それにしても、米国国歌「Star Spangled Banner(星条旗)」というのは、本当に聞く人の気持ちを高揚させる歌詞とメロディーですよね。

この歌は、第二次独立戦争とも呼ばれる米英戦争のある出来事を歌っています。 アマチュアの詩人だったフランシス・スコット・キーという人が書いた「マクヘンリー要塞の防衛戦」(The Defence of Fort M'Henry)という詩がもとになっています。

このキーという人は、マクヘンリー要塞が英国海軍から激しい艦砲射撃を受けた時、英国軍に身柄を拘束されて艦上にいたんだそうです。

一晩中続いた砲撃の後、夜明けに星条旗がまだはためいているのを見て感激して、この詩を書いたそうですが、この詩の一部が後にジョン・スタフォード・スミスという英国人が作った曲(酒飲み歌として人気があった)のメロディーにアレンジされて「Star Spangled Banner(星条旗)」という歌になったそうです。

そして、その歌が国歌に採用されたのは1931年のことだそうですから、それは第2次世界大戦のちょっと前のことなのです。

歌詞には「砲弾」だの「爆弾」だのという言葉が含まれており、まさに戦いのことを歌っているわけですが、米国国内ではこの歌詞に対して批判もあるのだそうです。

そもそも、独立を果たした米国と英国が何故また戦争をするに至ったかということに注目しなくてはなりません。

私は、この詩の背景となったのは、英国からの独立をかけて戦った独立戦争だと勘違いしていたのですが、実際には独立後の米英戦争でした。米英戦争は「インディアン戦争」とも呼ばれています。

ご存知のように、アメリカ大陸には先住民族が住んでいました。入植白人達に住んでいた土地を奪われた先住民族は、次第に内陸部や西部に追いやられていきます。

開拓(侵略)は、さらに西へ南へ北へ(植民地カナダ)と拡大し、彼らは自分達の生存のために戦うしかなかった為に、米国と対立する英国と手を結んだのです。

独立後も米英間には緊張が続いており、英国による海上封鎖で経済的な打撃を受けていた米国では反英感情が高まっていたそうですが、先住民族による激しい抵抗の背後に英国がいると考えた米国は、解決のためには英国と戦争するしかないと判断したそうです。

当時、ナポレオン戦争で米国と戦争をするような余裕のなかった英国に戦争を仕掛けて、植民地カナダを我が物にしようという思惑もあったそうです。

ですから、宣戦布告したのは米国側でした。

英国軍の攻撃は主に海から、地上では先住民族が攻撃したんだそうですが、先住民達の戦いは自分達の生存を守るための戦いですよ。

それに、多くの黒人奴隷が英国軍に参加して、自由を求めて戦ったそうなんです。

戦争は長くは続きませんでした。米英の両方が経済的にも軍事的にも疲弊していたからです。

この戦争で、多くの先住民族は消滅寸前まで虐殺され、領土を奪われました。先住民を追い出した広大な土地は米国のものになり、入植白人達がさらに開拓を進めることになります。

英国軍に参加して戦った黒人奴隷達は買い戻されました。

こうした戦争の中で、フランシス・スコット・キーという人が「マクヘンリー要塞の防衛戦」という詩を書き、それが国歌になったわけです。このキーという人は、奴隷制度の熱烈な支持者でもあり、何人もの奴隷を所有していた記録が残っているそうです。

そして、この詩には、「金で寝返った者や奴隷に逃げる場所はない」という箇所があるのですよ。

And where is that band who so vauntingly swore
That the havoc of war and the battle's confusion,
A home and a country, should leave us no more?
Their blood has washed out their foul footsteps' pollution.
No refuge could save the hireling and slave
From the terror of flight, or the gloom of the grave:
And the star-spangled banner in triumph doth wave,
O'er the land of the free and the home of the brave.

基本的に、この戦争は、土地を手に入れること、開拓(侵略)を進めることが目的だったのですからね、自分達の生存のために戦った先住民族や自由を求めて戦った黒人奴隷をも相手にした戦争なのですからね、この詩が国歌にふさわしくないという意見があるのは当然でしょう。

この事実を、どれくらいの米国人が知っているんでしょうか。

国歌の最後の部分、

Oh, say, does that Star-Spangled
Banner yet wave
O'er the land of the free
And the home of the brave?

ああ、教えてくれ あの星条旗は今もはためいているか?
自由の地の上で
勇者たちの故国の上で

という、まさに気持ちが高揚する感動的な部分もね、「自由のために戦う勇者たち」というのが戦っている相手が「先住民族や黒人奴隷」となると、

ちょっと違うでしょ…

と思わずにはいられません。


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