毎年、「オーストラリア・デー」の1月26日の前日に「オーストラリアン・アブ・ザ・イヤー」という国民栄誉賞の受賞者が発表されます。
年齢に関係なく選考される最高賞の「オーストラリアン・アブ・ザ・イヤー」以外に、シニア部門、ヤング部門、そして地域のヒーローという4つの賞があり、各州及び特別区で候補者が選考され、その中から選ばれた受賞者が「オーストラリア・デー」前日に発表されるのです。
「オーストラリアン・アブ・ザ・イヤー」の受賞者は、科学者や医者が多かったですが、俳優のジェフリー・ラッシュやテニス選手のパット・ラフターが選ばれたこともありました。スポーツ選手は度々選ばれています。歌手や芸能人が選ばれたこともありました。
私は、それほど関心はなかったんですけど、注目するようになったのは、ロージー・バティーさんが選ばれた2015年からです。
ロージーさんは、普通の一般女性でしたが、家庭内暴力の被害者でした。息子のルーク君(11歳)を町のクリケットグラウンドで練習を見に来ていた父親に殴り殺されました。ロージーさんの目の前で。
今でも鮮明に覚えていますが、事件の直後から、ロージーさんは憔悴しきった姿でメディアのカメラの前に立ち、家庭内暴力の被害者が心理的あるいは経済的理由で泣き寝入りしていると、家庭内暴力の被害者の声に耳を傾けてくださいと、社会に対して訴えました。
ルーク君の事件が衝撃的だったことと、お母さんのロージーさんがこの問題を人々に訴え続けたことで、メディアが家庭内暴力について報道するようになり、国民の意識は大きく変わって行きました。
社会が変わるきっかけになった勇気あるロージーさんは、まさに「オーストラリアン・アブ・ザ・イヤー」という賞にふさわしい人でした。
こういうわけで、翌年2016年の受賞者にも注目していましたが、この年の受賞者は、元オーストラリア陸軍司令官のデイビッド・モリソン氏でした。この方の受賞にも、私は大変感激したのです。
モリソン氏は、陸軍におけるある事件をきっかけに有名になりました。軍内で複数の男性将兵が女性将兵の性行為動画をこっそり撮影し電子メールで配布していたことが明るみに出て、軍内に根強く存在する女性軽視やハラスメントを許容する文化が問題視されたのですが、その直後に、当時陸軍司令官だったモリソン氏が「女性を対等の人間として尊敬できない者は軍を去れ」と厳しく命ずるメッセージが発表され、これによって多くの国民がこのモリソン氏の存在を知ることになりました。
このスピーチを書いた当時陸軍中佐のケイト・マクレガー氏も、「オーストラリアン・アブ・ザ・イヤー」の候補に選ばれていました。マクレガー氏は、トランスジェンダーの女性です。
オーストラリア社会に根強く残る性差別や人種差別、偏見やハラスメント、家庭内暴力などの社会問題を、もっとオープンに報道して論じることで、人々の意識が変わり、ここ数年でオーストラリアの社会は目だって変わってきたと感じます。
そのきっかけを作った人達が受賞者として選ばれたことで、私はこの賞に注目するようになったわけです。
今年の受賞者は、26歳のグレース・テイム(Grace Tame)さんでした。
グレースさんは、15歳の時、ハイスクールの58歳の数学教師から性的虐待を受けた被害者だそうです。タスマニアでは、性被害者の身元を特定できるような情報を報道することが禁止されており、その法律のせいで彼女は公に発言することができませんでした。
加害者はSNSで自分の行為を自慢したり、インタビューに応じて自分が被害者であるかのような発言をしたりできても、被害者のグレースさんには発言の権利がなかったのです。このことがきっかけで「#LetHerSpeak」という運動が起こり、グレースさんは裁判によりタスマニア州から発言権を勝ち取りました。
ヴィクトリア州でも同様の法律が制定されようとしていましたが、それは阻止され、タスマニア州のこの法律は変更されて、被害者が発言できるようになりました。
グレースさんは、その後、子供の性被害を防止するための教育活動を行っています。また、被害者にも非があるという社会の意識を根絶すること、被害者が性被害について普通に発言できるようにすること、連邦法と州法の一貫性を求めて活動しています。
なるほどそういう人が選ばれたのか!
また、今年のシニア部門の受賞者は、先住民族アボリジニ初の教師だったMiriam-Rose Ungunmerr-Baumannさん、ヤング部門は女性の月経と貧困の問題に取り組むIsobel Marshallさん、そして地域のヒーローはケニアからの移民のRosemary Kariukiさん。自分と同じ移民の家庭内暴力や言葉の問題による孤立や貧困などに取り組んでいます。
全員女性でした。
今年候補になった皆さんの詳細は、こちらのオフィシャルサイトで読むことができます。
ちなみに、候補者はお役所の人達が選ぶのではなく、一般国民が推薦します。選考するのは有識者の選考委員たちです。
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