2023年12月16日

深刻な民族差別やいじめ

オーストラリアという国は、「白豪主義」(ホワイト・オーストラリアン・ポリシー)と呼ばれた白人優先主義とそれに基づく非白人への排除政策がある人種差別の国でした。

先住民を合法的に殺していた時代もあるのですよ。入植の邪魔になるという理由だけでなく、スポーツハンティング、つまり娯楽としても殺していたんです。

オーストラリアが、白人優先主義の政策を転換したのは1975年です。法律的に人種差別を禁止し、多文化多民族主義を国策として掲げるようになったわけですけど、その後も有色人種への差別意識は根強く残っていました。

私がオーストラリアに来た1993年当時は、まだいろいろありました。私自身、何度も差別を経験しています。

アジア人だというだけで下に見られてバカにされたり、お店で無視されたり不平等な扱いを受けたりしたのです。日本人を嫌う人達もいて、勤めていた小学校では、捕鯨問題や太平洋戦争当時のことを理由に私を非難する子供達もいました。その子達の親がそういうことを言っていたわけですよ。

こうした経験がトラウマになり、メンタルヘルスに大きな影響がありましたが、メルボルンは変わりましたよ。様々な人種や民族の子供達が通う学校で教育を受けた世代が増えるにつれて、心理的差別も減って来たと思います。

自分がアジア人だという理由で不当な扱いを受ける心配はもうありません。私達が住んでいる地域は特にアジア人が多いですしね、社会の様々な分野で活躍するアジア人が増えたこともあるでしょう。

メルボルンは住みやすくなったと私は思っていたんです。

ところが…

うちの夫の親しい友人のRさんが、この国を出たいと言っているという話を聞きました。

差別が耐え難いとの理由からです。

Rさんのことは、以前「別次元の差別と偏見」という記事に書いています。この方は、ご両親がエジプトからの移民ですけど、Rさん自身はメルボルンの南西にあるジーロング(Geelong)という街で生まれて育ったオーストラリア人です。

ただし、外見はアラブ人です。そして名前もアラブ系の名前です。

人柄が素晴らしく、ユーモアのセンスも抜群で、頭脳明晰。大学でエンジニアリングを学んだRさんは、たしか博士号も持っていらっしゃるはずですが、アラブ人だという理由でなかなか希望するエンジニアの職種で採用してもらえません。

生活のためにツールショップで働いていた時に、うちの夫と知り合いになったのです。

Rさんの奥さんはエジプト出身です。大学で薬学を勉強されていますが、オーストラリアではその資格を生かした仕事につくことが出来ません。

Rさんは、長年にわたり外見がアラブ人ということで日常的に差別を受けて来たそうです。2人の息子さんがいらっしゃるんですが、家族がより良い暮らしが出来る場所を求め、これまでに何度か引っ越しをされています。

メルボルンの近くにはアラブ人が多く住む街もあるんですけど、Rさんは外見がアラブ人でもオーストラリア生まれのオーストラリア人ですからね、そのような特殊な街に住むことは難しいそうです。

Rさんご夫婦は、以前はイスラム教徒でしたが、現在は無宗教になっています。イスラム教が持つ矛盾について深く考えた結果、イスラム教の教えに従うことは出来ないと判断したんだそうですよ。

そんなRさんですが、最近、差別がひどくなったとおっしゃっています。

パレスチナ武装組織のハマスが、イスラエル人に対するテロ攻撃を行ってからです。外見がアラブ人というだけでハマスの仲間であるかのように考える人が大勢いるわけです。

息子さん達は、毎日学校でいじめに遭っているそうです。

もう耐え難いからこの国を出て行きたいとおっしゃるんですけど、この国を出てどこに行くかが問題なんですよ。

奥さんの家族がいるエジプトやサウジアラビアは、選択肢に入っていません。アラブの国の多くでは女性の人権が制限されていますから、そんな国に行くことは出来ません。

アラブ人の外見でも差別を受けず、安全で自由で、子供達が良い教育を受けられて、人権問題のない住みやすい国って、アラブにありますか?

結局は、オーストラリアに残って、差別に立ち向かいながら頑張るしか無いんじゃあないかと思いますよ。この国は、まだまだ問題はありますけど、平和で自由で安全だし、学校教育のレベルは悪くないし、女性の人権も性的マイノリティーの人権も法律で保証されています。

それでも、Rさんはこの国を出たいそうです。

カタールとかドバイなどは、もしかしたら可能性があるでしょうかね。

アジア人に対する差別や偏見などとは比較にならないひどい状況があるということを、とても残念に思います。


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