2021年6月7日

翻訳とコピー商品と救急箱

1年以上ぶりにまとまった量の翻訳の仕事が来ました。

私がやっているのは、機械や電動工具の取扱説明書の翻訳が主です。英和翻訳をやったことがある方ならお分かりでしょうが、英語から日本語への翻訳は言葉通りに訳したのではヘンテコになってしまいます。

オリジナルの英語が言わんとすることを日本で書き換えるわけです。

機械や電動工具の取扱説明書を日本語で書き換えるのは、書かれている内容を理解していないとできません。

取扱説明書にはユーザーが理解しやすいように写真や図表が載せられていますから、それを見ながら理解して日本語にしていくわけですが、分からない時には会社の技術者に質問したりします。

その過程で、私はしょっちゅう取扱説明書内の間違いを見つけます。言葉通りに訳していると見つけられないでしょうね。

それはともかく…

届いた仕事は取扱説明書ではありませんでした。

それは新商品と仕様が改良された商品のマーケティング用テキスト。パッケージやカタログやウェブサイトなどに載せる説明文とか宣伝文などでした。結構たくさんありました。

これがエクセルファイルで届いたんです。

エクセルは翻訳に向かないんですよ。もともと文章を書き込むためのソフトじゃあないんですから余分な時間がかかります。英数字の混ざった日本語をセルに書き込むと変なところで改行したりしますし。

しかしね、最も障害となったのは、

写真がないこと!

その会社のウェブサイトを見てもそれらの新商品はまだ載っていません。

どんな商品なのかが分からないし、説明文には「何を言いたいのかワケワカラン!」という部分がいくつもあって。

エクセルファイルを送ってきたのが金曜日で「できるだけ早くお願いします」と言うのは土日にやってくれと言っているようなものですよ。ところが、彼等は土日は休んでいるんですから写真を送ってくれとも頼めないのです。

しかし、おかげさまでなんとか翻訳を終了しました。

誰のおかげ?

他の大手メーカーのおかげですよ。

私が翻訳をしている会社は英国の会社なんですけど、実はこの会社は(内緒ですけど)世界の大手メーカーの人気商品を真似して新商品を作るのが得意なんです。

エクセルファイルに入っていた新商品というのも、他メーカーの売れ筋商品のコピーと言ってよろしい。ですからね、そうしたメーカーのウェブサイトで写真を見たり、そっくりな商品の取扱説明書を読んだら、言わんとすることは理解できたということなんですけど。

なんだかなあ…

しょせんコピーはコピー。オリジナルにはかなわないんですけどね、安さで勝負ということか。欧州市場は経済格差も大きくて、安いコピー商品の方が売れる国もあるのでしょうけど。

日本には世界のトップメーカーがあるわけじゃないですか。

私は、頼まれたものを日本語に翻訳しながら、ついつい「これを日本で買う人がいるか?」と考えてしまいます。

まあ、日本のメーカーにしても、自社独自の技術で開発した完全オリジナル商品というのは稀だとは思いますけど。


ところで、うちの夫はツールショップに勤めているので時々面白い話を聞くんですが、最近の大ヒット商品というのをお教えしましょうか?

それはね、

救急箱!

オーストラリアで応急処置(First Aid)のトレーニングを提供しているセントジョンズ(St John Ambulance Australia)という団体がありますが、ここは各種救急箱や救命救急器具の販売もしています。

このセントジョンズと電動工具の大手ミルウォーキー(Milwaukee)が共同開発して販売した建築現場用救急箱というのがあったんです。

ミルウォーキーのブランドカラーである赤い丈夫なボックス入り。ツールとかを入れる収納ボックスと同じ仕様ですから、積み重ねて台車に乗せれば現場への搬入も容易です。


200ドルくらいする商品です。200ドルって日本的には2万円という感覚ですよ。

これを最初は1000個作ったんですって。セントジョンズは1000個も作ったら売れ残ると心配したそうです。値段も値段ですしね。

これを、販売店の救急用品コーナーではなくてミルウォーキー電動工具コーナーで売るという戦略で販売したところ、

あっと言う間に売り切れ!

需要が大きくて、すぐに追加製造が決まったそうです。

ミルウォーキーの電動工具はオーストラリアのプロ達に大変人気がありますが、こうしたプロ達が、200ドルもする救急箱を見た瞬間に欲しいと思ったんですよ。

これはアレでしょ、商品開発者のアイデアの勝利ですよ。電動工具と同じ場所で売ったのも成功の鍵でしょうね。ブランド力というのもあるでしょう。

これをコピーするかもしれないな、あの会社は。


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