オーストラリアでは、9月の第2木曜日は「R U OK?」の日です。今年は14日が「R U OK?」の日でした。
「Are you OK?(R U OK?)」とは、体調を崩しているのではないかと思われる人に「大丈夫?」とたずねる時のフレーズです。
あなたの家族や友人や仕事の同僚の中に、最近元気がない人や心の病気に苦しんでいる様子の人はいませんか?あなたが「Are you OK?」「大丈夫?」と声をかけることで、一人で苦しんでいるかもしれない誰かを救うことができるかもしれません。そんな自殺予防キャンペーン運動です。
「Are you OK?」の運動は、ギャヴィン・ラーキン(Gavin Larkin)さんという方が始められました。自殺したお父さんの苦しみに気づいて助けてあげられなかったことを悔やんだことが、この運動を始めるきっかけだったそうです。
これに関連して、「The Man Cave」という団体の活動に関する新聞記事を読みました。
メンタルヘルスの問題は、男女の差なく誰にでも起きるものですが、男性は心に抱えている問題を誰にも言わずに一人で我慢し続ける傾向があります。
声をかけることで、苦しんでいる人が心を開くきっかけを作り、誰にも言わずに一人で抱え込んでいる問題を話せるようにしようというのが「Are you OK?」の運動ですが、「The Man Cave」という名前の団体が行っているのは、若い男性の自殺の要因にもなっている有害な「男らしさ」というステレオタイプ(固定観念)を変えようということなんです。
私達女性は、「女のくせに」と差別を受けることがよくあります。男性と平等な機会を与えられなかったり、不当な扱いを受けたりします。だから、少女達には差別に立ち向かい、問題意識を持って世の中を変えていくために声を上げ、行動していくことの大切さを教えます。
一方、男性達には「男らしさ」という社会のステレオタイプによるプレッシャーが存在するのですよね。男はこうするべき、こうあるべきという「男らしさ」を教えられて育つ少年達は、教えられた「男らしさ」というものによって苦しむことが少なくないのです。
メンタルヘルスについて話す時、この「男らしさ」というのが問題になるんですけど、「The Man Cave」の活動は、大人になる前の少年達がまだ若いうちに介入して有害な「男らしさ」という固定観念を変え、自殺や家庭内暴力につながる不安やうつ病を減らそうということだそうです。
少年達が、健全な人間関係を築き、自分の可能性を最大限に発揮して、地域社会で前向きな行動を起こせる大人の男になるために必要な態度、信念、行動を身につけさせることが活動の目的だそうです。
少年達に「良い男とは何か」「本当の男とは何か」と尋ねると、彼等は「良い男とは、敬意を持ち、正直で、勤勉で、親切な人」であると答えます。 しかし、実際には「本当の感情を隠し、弱みを見せないように強気でいて、同性愛者であってはならず、女の子みたいではいけない」のです。
よく聞きますよねえ?「男のくせに泣くな」とか「男なんだから我慢しろ」とかね。少年達は、男は強くなければいけないと教えられて育つのですよ。女性のように感情を表したり、助けを求めたりしてはいけないと。そして、経済力と権力、地位、影響力がある男が価値がある男であると。
この有害なステレオタイプのせいで、男性達は心に抱えている問題を誰にも言わずに一人で我慢し続ける傾向があるのです。これが若い男性達の最大の死因が自殺であることと関係しています。
ハイスクールの年齢の10代は、人間関係の悩みや将来への不安、両親の不和や暴力といった家庭の事情や、性自認や性指向に関わる悩みなど、多くの不安や苦しみを抱えているものです。親から期待されることと自分自身がやりたいと思うことが違う場合の葛藤などで苦しむ少年達もいるでしょう。
そうした不安や苦しみを抱えている少年達が、自分の「男らしさ」を証明しようとする時に、他者への攻撃や危険な行動をとることがあります。
激しい怒りを持っている少年達の、その怒りの下にあるのは悲しみだったり不安だったり苦しみだったりするのですけど、自分の激しい感情とどう向き合っていくべきか。そういうことも「The Man Cave」は教えているわけです。
オーストラリアでは、家庭内暴力の問題は深刻です。毎週1人の割合で女性が男の手によって命を落としているそうですが、ほとんどの場合、その相手は女性達の夫やパートナー、恋人なのですよ。
こうした暴力を無くすためには、男性への教育が不可欠なわけですけど、「The Man Cave」はこの問題にも取り組んでいるそうです。
私が読んだ新聞記事というのは、あるハイスクールの8年生(日本の中学2年に相当)を対象としたワークショップについての話でした。どのようなアクティビティーをしたのか、セミナーでどんなことを教えたのか、詳しいことは分かりませんけど、心を開くというセッションで、ある一つの質問が少年達を変えたという話でした。
その質問というのは、
「How is your life really going?」(あなたの人生は本当にうまく行っていますか?)
しばらく沈黙が続いた後で、勇気のある一人の少年が家庭の問題で苦しんでいることを打ち明けたのだそうです。それを話しながら少年は泣きました。少年の隣りに座っていた2人の友達がすぐに彼の肩や背中に腕を回したそうです。
その少年が心を開いて打ち明けたのがきっかけとなり、他の少年達が次々に悩みや苦しんでいることを打ち明けたそうです。そこにいた8年生の少年達全員が涙を流したそうです。
何ヶ月も、あるいは何年間も一人で苦しみ続けていたことを、この時初めて解き放つことが出来た少年達も多かったのです。
一人で苦しみを抱え込まなくてもいいんです。ツラいことや苦しいことは話を聞いてくれる誰かに話せばそれだけでラクになることもあるし、解決の方法が見つかるかもしれません。
誰だって、泣きたいほどツラい時は泣けばいいんだし、涙を流すことは弱さでもなんでもないんです。困っている時には相談できる人がいます。学校にはそうした相談ができるカウンセラーがいるはずですが、電話相談という方法もあります。
「The Man Cave」のワークショップに参加した少年達の多くが、人生を変えるような経験だったと言っているそうです。
この団体の活動に注目して行きたいと思います。
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