2022年5月23日

オーストラリアの選挙制度と新首相

日本でもニュースになっているようですね、オーストラリアの連邦選挙のこと。

これまで9年も続いていた保守連合政権の自由党と国民党が多くの議席を失い、下院(House of Representatives)で過半数を獲得しそうな労働党に政権が交代する見通しとなりました。

自由党は、副党首で財務大臣を務めていたジョッシュ・フライデンバーグ氏が無所属の候補に負けるなど、スコット・モリソン政権への批判が大きな逆風となりました。

私はね、スコット・モリソン首相が、教会の権利を法律で保護する「宗教自由法」なるものの成立にこだわり続けるのを見て、この人が首相ではダメだと思いました。

「宗教自由法」というのは言い換えると「宗教の教義に基づいて差別する権利を認める法」だからです。

労働党党首のアンソニー・アルバニーズィ氏は、日本で明日開かれるクアッド首脳会合に首相として出席するために、本日大急ぎで新首相に就任し、就任したらすぐにその足で日本へ向かうそうですよ。

いやあ、それにしても気分がいいです。

私がオーストラリアの選挙制度が好きな理由はこれなんですよ。国民の意志が選挙結果に明確に反映されるから、政府に満足できない時には政府を交代させることが簡単だということ。

まさに民主主義!

オーストラリアでは、連邦政府であろうと州政府であろうと、議員を選ぶ選挙は国民の義務ということになっていますから、投票を怠ると罰金を食らいます。

選挙権は18歳以上ですから、18歳の誕生日が近づくとAEC(Australian Electoral Commision)という選挙委員会に登録をしなくてはいけません。

そして、何らかの理由で投票できなかったというようなことがないように、期日前投票(数週間の期間が設けてあります)、郵便による投票、委員が家庭を訪問してくれる訪問投票、新型コロナ問題のある現在は電話による投票、投票所での投票介助、そして投票所は全国どこの投票所に行ってもOKと、国民誰でも必ず投票ができるような仕組みが作ってあるんです。

うちの夫は選挙の日の土曜日に仕事だったので期日前投票に行きましたが、私が運転して連れて行きましたので、私もついでに期日前投票をしました。

投票を怠ると罰金なんですから、政治に関心がありませんなどとは言っていられません。選挙が近づくとどうしたってオーストラリア中が政治の話題になります。多くの家庭で、職場で、学校で、選挙の話題は避けられません。ですからね、誰に投票しようか、どの政党に投票しようかと、誰でもある程度は考えるのです。

議員は自分達の代わりに議会に行ってもらってあれこれ決めてもらうための代表に過ぎないという意識が強いですけど、これも重要です。

こうした社会では、政府がやっていることを良しと思わない人が増えれば、簡単に政府は変えられるのですよ。変えられるから、皆んな選挙にもっと本気になるわけです。

オーストラリアの選挙制度は、ちょっと複雑です。選挙結果にできるだけ民意を反映させるための仕組みだとも言えるんですけど、上院(Senate)の方は簡単に言うと比例代表制なんですが、投票用紙が変わっていて、1メートルくらいある投票用紙は、太い線で上と下に分かれております。上は政党を選ぶようになっており、下は候補者個人を選ぶようになっており、自分の好きな方のやり方で投票します。

候補者の数が半端ないですから、私はいつも政党を選んでいますけど。政党の数も半端ないですよ。予習をしていかないと投票するのに時間がかかります。

下院(House of Representatives)の方は選挙区ごとに代表を選ぶので候補者個人に投票しますが、この下院の投票の仕方が変わっていて票の数え方が複雑なんです。

日本のように、投票したい候補者の名前を書くのではなく、投票用紙には候補者全員の名前が印刷されていて、名前の横の四角の中に数字を書くようになっています。最も投票したい候補には「1」、その次に投票したい候補に「2」というように、優先順位を指定するのです。

開票の際には、まず優先順位が「1」の票数を数えます。投票総数の過半数を獲得しなければ、誰も当選しません。一番多い人が勝ちではないのです。

誰も過半数を獲得しなかった場合には、優先順位「1」の票で最も票数が少なかった候補者が除かれ、その候補者に投票した人達の票の優先順位「2」の票数が残りの候補者たちに追加されます。

この作業を、誰かが過半数を超えるまで繰り返すのですよ。

少数派の候補を支持する投票者の意思も反映されるわけですし、代表に選ばれる候補者は必ず過半数の票を獲得しなければならないわけですから、より民主的だというわけです。

ただし、開票にものすごく時間がかかることがあります。


ところで、今日新首相に就任する労働党党首アンソニー・アルバニーズィ氏ですが、労働党のメンバーは恵まれた家庭出身ではない場合が多いのですけど、この方は母子家庭の一人息子で、経済的に苦労されましたから低所得者向け公営高層アパートに住み、お母さんがリウマチを患った後は障害者年金で生計を立てていたという出自の方です。

父親はイタリア人だといろいろなところに書いてありますが、お母さんが船で(兄がこの船で働いていた)ロンドンに行った際に、客室乗務員として働いていたイタリア人と関係を持ち妊娠してしまったのですが、相手のイタリア人は既婚者だったか結婚することが決まっていたかで(要するに二股だったわけ)彼女からは去って行ったんですって。

お母さんは一人で帰国して出産し、生まれた子は里子に出せという周囲の声に耳を貸さず、アルバニーズィ氏を育てました。当時は若い母親が働きに出るには祖父母の子守りが不可欠だったでしょうから、祖父母の世話にもなったそうですけど。

60年代の当時は、未婚の母ということでは世間体が悪いということもあって、お母さんは海外に行ってイタリア人と知り合って結婚したが、夫は交通事故で亡くなったということにして、息子の名字はそのイタリア人の名前の「アルバニーズィ」をつけたそうです。

アルバニーズィ氏が6歳の時に、息子に父親を作ってあげたいと一度結婚されたそうですが、その結婚は数ヶ月しか続きませんでした。15〜16歳の頃に本当のことを教えられたものの、父親を探すことはしなかったそうです。

お母さんがお亡くなりになった後で、アルバニーズィ氏は父親を探し出して会いに行かれていますけど、50年ぶりの再会だったなんて書いてある記事もありますが、再会じゃあないんですよ。会ったことがない人だったのですからね。

土曜日の選挙勝利宣言のスピーチでは、苦労して自分を育てたお母さん(故人)に感謝され、自分が育ったのと同じような公営アパートに暮らす人達が、これを見ていて欲しいと話されました。オーストラリアのすべてのお父さんお母さん達に、自分達がどんなところに住んでいようと、どこの国の出身であろうと、この国では誰にでも機会は開かれているのだということを子供達に教えて欲しいとおっしゃいました。

いいことを言いますね。

労働党政権がこの国を今よりももっと良い国にしてくれることを期待します。


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