2022年2月11日

宗教の教義に基づいて差別する権利を認める法

現在のオーストラリアの連邦政府首相はスコット・モリソンという人です。オーストラリア自由党の党首です。自由党は国民党と保守連合と呼ばれる連合を組む場合が多いのですが、現在の連邦政権も保守連合です。

スコット・モリソンという人は、キリスト教ペンテコステ派の信者なんだそうです。ペンテコステ派なんて聞いたことがないでしょう?私も聞いたことがなかったです。興味がある方は、Wikipediaを読んでください。

詳しいことを知りませんから批判めいたことは書きませんけど、スコット・モリソンという人は熱心なペンテコステ派の信者なのだそうで、教会の権利を法律で保護する「宗教自由法」なるものの成立を公約に掲げていました。

ところがですね、教会の権利というものの中には、キリスト教の教義に基づいて「人々を差別する権利」というものが含まれるのですよ。ですからね「宗教自由法」というのは言い換えると「宗教の教義に基づいて差別する権利を認める法」ということになるわけです。

LGBTという言葉は、皆さんもご存知ですよね。日本では「性的少数者」とも言いかえられることも多いですが、「性の多様性」や「性自認の多様性」を認める文化の中で非常に頻繁に耳にする表現です。

LGBTとは、レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)の3つの性的指向と、トランスジェンダー(Transgender)という性自認の4つの単語の頭文字を組み合わせた表現ですけど、現在ではこれら以外にも様々な性的指向や性自認の人々が存在することからLGBTQI+(プラス)という表現が使用されることが一般的になっています。

かつて同性愛が犯罪とされていたオーストラリアですが、LGBTQI+の人々の権利を保護するための法律ができ、同性婚も法律で認められ、社会がより多様性に寛容で平等な社会になって来たというのに、宗教上の理由で人々を差別する権利を法律で保護しようとする法案が作られて、昨年から話題になっていました。

差別の対象となるのは、LGBTQI+の人々です。

私はね、最初に聞いた時には「なんて馬鹿げた話だ」「そんな法律ができるわけがないだろう」と思っていたんですけど、少しずつ修正された法案は議会に提出されて審議されるに至りました。

一番大きな争点となったのは、宗教系の学校が性的指向や性自認を理由に生徒や教師を差別することが出来るようにする点でした。オーストラリアの私立学校は、ほとんどが宗教系ですよ。多くはキリスト教系です。

つい先日も、クイーンズランド州の「Citipointe Christian College」という学校が、学年度の始めに保護者や生徒に契約書を送りつけ、それに署名するようにと要求したのですが、その契約書の中に同性愛者やトランスジェンダー(心と身体の性が一致していない人)を獣姦や小児性愛と同類の「異常な性」であって「罪」であると位置づけて、同校では生まれた時の生物学的な性に従う者しか受け入れないと書いてあったことが大問題になりました。

このキリスト教の学校のように、教義に基づいて教師や生徒を差別することが出来るようにする法律を作ろうとしているわけですよ。

ちょっと信じがたいでしょ?

他党の議員からの反対が強くて、法案は何度も修正されましたが、そもそも人を差別する権利を認める法律を作るなんて間違っています。与党の自由党からも数人の議員がこの法案に反対しましたが、当然だと思います。

性指向や性自認だけでなく、あらゆる多様性を認め合おうという社会に変わってきているオーストラリアでは、LGBTQI+であることを隠さずに生きていける人が確実に増えて来てはいますけどね、それでもまだ本当の自分を隠して生きるしかない人が大勢いるんですよ。

LGBTQI+への偏見や嫌悪が社会から無くなっていないからです。

そして、そうした偏見や嫌悪を宗教関係者達が教え続けているのですよ。

幼い頃からLGBTQI+が「異常」だの「罪」だの「神への冒涜」だのと教えられて育った子供達が、偏見や嫌悪を持つ人間に育つのは当たり前でしょう。そして、悲劇なのは、そういう偏見や嫌悪を教えられて育った人が、自分自身がLGBTQI+だと自覚した場合です。

どれほど大きな苦しみでしょうか。それを家族や学校の人々に知られることを恐れるに違いありません。

知られると家族に受け入れてもらえないかもしれないというのは、子供達には強い恐怖でしょうね。実際に家族から拒絶されて家を追い出される子供達もいますからね。

たとえ家族には受け入れられても、学校がLGBTQI+への偏見や嫌悪を教えていたらどんなにつらいことでしょうか。自分がLGBTQI+だと知られたら、いじめに遭うだけではなく、学校にいられなくなるし友達も失うと分かっていたら、子供達は緊張と恐怖の中で生きて行かなければいけません。

悩みや苦しみを誰にも言えず、ただ隠し続けるしかないとしたら、どんなに苦しいでしょう。

LGBTQI+の子供達の自殺の原因がそこにあるんですよ。

ああ…

うちの娘は「同性の女の子が好きになる」同性愛者ですけどね、

どこが罪なんですか!神への冒涜なんですか!

完全に間違っています!

そんな教義を持つ宗教こそ「罪」じゃあないんですか?

「差別する権利を認める法」なんていうものを作るんじゃあなくて、むしろ「差別禁止法」を改定してですね、人を差別する宗教の教義は違法ということにしてもいいんじゃあないかと私は思いますね。

そういう間違った考え方を人々に広めるのも違法ということにすればいいんですよ。


この法案は否決される見通しとなり、モリソン政権は法案を棚上げしたんですけど、一部の与党議員からも反対に合い、様々な修正を余儀なくされた法案は、すでにモリソン政権が宗教団体に約束していた内容にはほど遠くなっていましたから、廃案になる見込みです。

そうなるべきです。

こんな法律を作ってはいけません。

連邦選挙が近づいて来ています。私達の社会をより平等で多様性受け入れる社会にするために適切な人を選んで議会に送らなければいけません。


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