2022年1月16日

読めないレシピと家族の歴史

私が趣味でやっているレシピサイトに載せている料理の中には、私が母から教わった料理がいくつもありますが、そういう料理には文字にして書かれた「レシピ」というものが無いのでして、お料理を手伝ったりしているうちに学んだわけです。

味噌汁にしても、酢の物にしても、煮物にしても、大体これくらい入れてこんな色になってこういう味という料理です。

ですからね、20年ほど前に「日本語を教えている学校の教室で作れる料理を紹介する本」を出版するためにそうした料理のレシピを書いた時には、少々苦労しました。いちいち計量スプーンで計ったりなどしないで作る料理のレシピを書くんですからね、水の量も調味料の量も全部計って、いつもの味にするにはどれだけ入れたらいいのかというのを、まるで理科の実験をするようにして調べたものです。

頭の中にあるレシピというのを次の世代に伝えるには、一緒に料理をしないと教えられませんから、いずれは失われてしまいますが、ちゃんと紙に書き残してあれば話は違ってきます。

お菓子やケーキ作りには計量が欠かせないので、材料と分量そして作り方を書いた「レシピ」というものが書かれることが多かったと思われます。何百年も前に書かれたレシピが残っていることも珍しいことではありません。

オーストラリアは移民の国で、最初は大英帝国からの移民が中心でした。お菓子やケーキ作りの長い歴史がある国からやって来た人達は、そうした「レシピ」を自分で書き留めたり、誰かにもらったレシピや新聞や雑誌などで見つけたレシピを切り取って貼り付けたりして、「レシピブック」というノートを作っていました。

そうした「レシピブック」は、持ち主が亡くなると家族の誰かが譲り受けることが多いです。お料理が得意だった人の「レシピブック」は、もらいたいと思う人も多いでしょうね。

こういう習慣は、日本ではあまり聞きません。

義母(夫の母親)の家に伝わるレシピは、義母の一番上の姉ジョーンが譲り受けていました。そして、ジョーンは自分のおばさん達からもレシピをもらったりして、自分の「レシピブック」を作っていたんです。

毎年家族が集まるクリスマスには、家に代々伝わる「クリスマスプティング」というデザートを作って来るジョーンですが、あれが作れるのはレシピを持っているジョーンだけだと聞きまして、私はそのレシピを次の世代に残すために私のレシピサイトに載せたいと思ったんです。

ジョーンは他にもいろいろ古いレシピを持っていると言うので、先日ジョーンの家にお邪魔してレシピをコピーさせてもらって来ました。レシピの写真を撮って来たと言った方が正しいですが。

ところがですね、

レシピの読解が簡単ではないんですよ!

ジョーンの手書きは読みにくいというのは家族内では有名な話なんですが、若い頃に書いたレシピも、中には10代の頃に書いたものもあるんですけど、やっぱり読みにくいんです。

例えばこれ。

ジョーンの伯母さん(うちの夫の祖父の妹)にあたるローナのチーズケーキのレシピなんですが、皆さん、読めますか?


1行目「Line two sponge tins」(2つのスポンジ型にベーキングペーパーを敷く)というところの後でもうお手上げでした。

最終的には読めたんですよ。

1行目のその後は「biscuit pastry + pre cook」(ビスケット生地を敷き詰めて焼いておく)と書いてあるんです。

このレシピは、ジョーンが10代の頃に書いたものらしくて、まだ整った筆記体で読みやすい方です。最近の手書きは「ミミズが這ったような」という表現が的確な感じでして、うちの夫の助けがないと私には読めません。

「読めない、読めない」と苦情を言う私のために、ジョーンはおすすめレシピのいくつかを筆記体ではなくて読みやすい活字体で書き直して送ってくれました。

わざわざ活字体で書き直してくれたレシピは、こんな感じです。


私は活字体で書き直してくれたレシピにも苦労しています。


古いレシピは、クリスマスなどの特別なイベントや大家族のために作ったであろうケーキやデザートなので量が多いです。私が作るには、レシピの量の半分か四分の一くらいで作る必要があります。

また、今では手に入らない材料が出てきたりします。「缶詰のぶどう」なんていうのが必要だったりするのです。

単位がヤード・ポンド法ですしね、いちいち計算してグラムとかリットルに換算しなくてはいけません。

ジョーンの「レシピブック」には、うちの夫の曽祖父ダンカンの妹のパイのレシピというのもありました。100年くらい前のものです。

曽祖父ダンカンの娘の一人(うちの夫の祖父の姉)ベティはパプを経営していた人なので、パブでお客に出していたと思われるホットフルーツサラダのレシピなんていうのもありました。ブランデーを1カップも入れるんですよ。

どのレシピも当時の暮らしを想像させてくれるもので、大変興味深いです。

私の日本側の家族にも、こういう「レシピブック」のようなものが伝わっていたら面白かっただろうになあと思います。


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