2021年2月2日

トラウマ克服へ

強い恐怖や不安を感じた体験は、その時の周囲の状況と合わせて強く記憶されるものです。

多くの場合は、そうした体験の記憶はトラウマとなり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を始めとする様々な問題を引き起こします。

問題は引き起こさないまでも、そうした記憶に結びつく状況や場所を避け続けることで、生活に様々な影響が出ていることは多いものです。

私の母親は、私が子供の頃、通勤に自転車を使っていましたが、ある時転倒して大怪我をし、その後は一度も自転車に触れようとはしませんでした。

うちの娘は、トラウマとなるような出来事をいくつか経験していますが、その一つが運転免許試験に2回連続で不合格になったことでした。

10代の数年間を「抜毛症」や「拒食症」そして「パニック発作」と、不安障害の様々な症状で苦しんで来て、運転試験を受けるということそのものが大変な努力を要しました。

そうして挑んだ1回目の実技試験に不合格となり、しばらくは運転ができない状態になりましたけど、何とか勇気を振り絞りって再挑戦しました。あの時は兄であるうちの息子も同時に試験を受けるというので発奮しました。

2回目の時は、もうね、家を出るという所から勇気を振り絞らないといけなかったんですよ。いつ不安発作が起きるかと、私は緊張し過ぎて具合が悪くなるほどで。あの日は、うちの夫が仕事を休んで娘を VicRoads(ヴィクトリア州の運転免許センターみたいなところ)まで連れて行ってくれたのでした。

ところが、2回目の運転試験でも1回目の時と全く同じ場所で全く同じミスをして、それも普通なら考えられないようなミスをして一発不合格となったのでございます。2019年1月24日のことです。

その後は「二度と運転しない」と宣言しまして、家族は運転の「う」の字も口に出せないほど娘はこの話題に敏感になりまして、約2年間本当に車の運転をしませんでした。

家に引きこもった昨年は、お友達のCちゃんが度々遊びに連れ出してくれましたが、Cちゃんは毎回わざわざ我が家まで迎えに来てくれたのでした。このことに少なからず罪悪感があったようです。

その娘が、再び車の運転を始めたのは、注文したマンゴーを受け取りに行くためでした。昨年末のことです。

マンゴー農家をサポートするプロジェクトでマンゴー1箱20個入りを注文し、それを受け取りにメルボルンの南東にある Malvern という街まで行かなくてはならなくなっていたのですが、お母さんに連れて行ってくれとは頼みづらかったらしくて。

きっかけは何でもいいんです。

とにかく約2年ぶりに運転し始めたのです。

昨年優等学士課程(大学4年目)を終了して以来仕事探しをしている娘ですが、車が運転できないため、仕事先は電車やバスを乗り継いで行ける場所に限られます。やりたいと思う仕事の求人を見つけても、車が運転できないためにあきらめなければならないという事が多いらしくて、応募できる求人に限界があることを痛感したようです。

そんな矢先、娘は軍隊に入ることを検討し始めました。軍隊に入ると、給料をもらいながら博士課程の勉強ができるんです。そして軍隊に入っていると、大学に受け入れてもらいやすくなるんだそうです。

選考に通るために、自分には何が必要かということを考えた娘は、身体能力アップのための運動も始めましたけど、車を運転できる能力というのは絶対に必要なんですよ。軍隊の仕事がしたいのなら、免許を取るしかないんです。

運転試験はトラウマになっていますけど、

もう避けているわけには行かない!

ということで、

ついに3回目の運転試験を受けることにしたそうです。

予約も自分で入れました。トラウマの記憶が焼き付いている場所とは別の運転免許センターで受けるそうです。プロの指導員による運転教習も受けることにしたそうです。

娘の頭の中で、何かが起きたみたいですね。

「目標を達成したい」という強い意志が、不安や恐怖の記憶を蹴散らしてしまったような様子です。

トラウマになるような強い恐怖や不安の体験が記憶として脳に刻まれるメカニズム解明への研究が進んでおり、それを和らげるための手法や最新技術を使った様々な方法が開発されているそうです。

このブログでも取り上げた「眼球運動による脱感作および再処理法(EMDR)」もそうした手法の一つですが、近年は、従来の「恐怖記憶に結びついている対象への暴露を繰り返すことで恐怖記憶を抑制する」という非常にストレスのかかる方法から、患者がほぼ無自覚のうちに恐怖記憶を変容することができることが分かっています。

要するに脳の配線をやり直すということですよ。

うちの娘の脳みそは、確実に配線のやり直しが進行しているようです。


娘はバスを使って一人で駅まで行くことができません。毎回お母さんが駅まで送っていきます。帰りはバスで帰れるんですけどね。この問題も、車を運転できるようになれば解決です。

新しくカウンセリングを受け始めた影響もあるのかもしれませんが、やりたい仕事を見つけたというのが大きいように思います。


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