2016年1月22日

物語「モリーとネズミ」

モリーは盲導犬パピーです。クリーム色のラブラドールレトリバーで、ぬいぐるみのように柔らかくてふわふわした女の子です。リストン家にやって来た時は生後7週目で、まだ裏庭に出る階段も上れない小さな子犬でしたが、身体はどんどん大きくなっています。


リストン家にはとても広い庭があります。裏庭の外側に出ると、大きなユーカリの木がたくさんある広い草地があって、モリーはそこを走り回って遊ぶのが大好きです。

お母さんが野菜を育てている畑や花壇の世話をする時、モリーは一緒に行ってお母さんがすることをよく見ています。お母さんが草を引き抜いているのを見て、モリーも真似をして草を抜いてみます。

「ああ、ダメダメ、それは抜いちゃダメよ」

お母さんが大きな声でなにか言います。モリーは嬉しくなってもっと草を抜きます。

「ダメよ、それは草じゃないの」

お母さんがモリーのお手伝いをやめさせようとするので、モリーはなんだかよく分からなくなってしまいます。

「ああ、いんげん豆がまた噛じられてるわ。カタツムリやナメクジじゃないでしょ、この噛じり方は。ポッサムかしらねえ…、でもポッサムってインゲン豆食べるの?」
「ほら、地面に穴が開いているのよ。一体これは何かしらねえ…」
「犯人は、この穴を通って入って来てるんじゃないの?結構小さいのよこの穴…」

お母さんは、畑の世話をしながら何かずっとモリーに話しかけるんですけど、モリーにはよく分かりません。でも、一緒に畑の周りで遊ぶのは大好きなんです。

そして、よく晴れた気持ちのいい春の初めの朝のこと。

お母さんと娘のサチちゃんが洗濯物を干しに外に出ようとしていました。

「モリー、洗濯物を干しに行くよ。モリーもお外に行こう!」

お母さんが「モリー」と呼んでいます。ドアを開けて呼んでいますから、外に出させてくれるようです。モリーは嬉しくて、走って外に出ました。

お母さんとサチちゃんが洗濯物を干している間、畑の周りで遊んでいたモリーは、小さな動く物を見つました。「なんだろう?」モリーは自分でも驚いたのですが、思わずその動く物を捕まえていました。すると、口にくわえたそれが暴れたので、思わずブルブルッと振ってみました。

「お母さん、見て!モリーが何か見つけたみたいよ」
「あっ、ホントだ。モリー、何なの?」

お母さんが「モリー」と呼んだので、モリーはお母さんの方を見ました。

「あれ?何か口にくわえてるよ!」
「ホントだ、何だろ?」

お母さんがモリーの方に近づいてきました。モリーはお母さんが追いかけごっこをする気だろうか、それとももう家に入るのだろうかと考えていました。

「ああ、ネズミよ!ネズミをくわえてる!」
「うっそー!」

突然、お母さんとサチちゃんが大きな声をあげました。モリーは、どうしたらいいのか分かりません。

「盲導犬が野ネズミなんて食べたらダメじゃないの?」
「病気になったりしたら困るよ!」
「野生動物の味を知っても困るじゃないの!」
「モリー!ネズミを放しなさい!」

お母さんが「モリー」と言ったので、モリーはお母さんが呼んでいると思いました。「そうだ、今捕まえたモノをお母さんに見せよう!」モリーは、お母さんの方へ走り出しました。口にくわえたものがブルンブルンと左右に揺れました。

「きゃあ、ネズミをくわえたまま来てるー!」
「モリー!ネズミを放しなさい!」

お母さんとサチちゃんが、自分を呼んだのに逃げていくので、どうしたらいいのか分からなくなったモリーは立ち止まりました。その時、くわえていたものが地面に落ちてしまいました。

「あっ、ネズミを放したよ!」
「よーし、いい子よ!モリー、こっちにおいで!」

またお母さんが嬉しそうに「モリー」と呼んでいます。やっぱりこっちに来いと呼んでいるんだ。モリーは地面に落ちてしまったモノを再びくわえると、お母さんの方へ走り始めました。

「きゃあ、拾ったあ!」
「だめえ、ネズミを放しなさいってば!」
「もう完全に死んでるよ、あのネズミ!」

お母さんとサチちゃんが、自分を呼んだのにまた逃げていきます。「追いかけごっこだったのか!」モリーは嬉しくなって逃げるお母さんとサチちゃんの方へ走りました。

「ストップ、ストップ!」

お母さんが「ストップ」と言っています。それが、止まれという意味だと知っているモリーは立ち止まりました。口にくわえていたモノがまた地面に落ちてしまいました。それは、さっきよりもヌルヌルと濡れたようになっていました。その時、息子のカイちゃんが家から出てきました。

「なんだよ、大騒ぎして?」
「カイ!モリーがネズミを捕まえたの!」
「ネズミ?」

モリーは、いつも遊んでくれるカイちゃんも好きです。

「いい子よ、モリー、こっちにおいで」

お母さんが「おいで」と言いました。モリーは、地面に落ちてしまったそのモノをまた口にくわえて走り始めました。

「ぎゃあ、また拾ったあ!」
「腹ワタ出てるよ!もうグチャグチャじゃん!」
「こっちに来るなあ!」
「ストップ、ストップ!」

お母さんがまた「ストップ」と言いました。モリーはまた立ち止まって、口にくわえていたものを落としました。

「カイ、そこの使っていない植木鉢をネズミにかぶして!」
「ええっ、オレがあ?」
「男でしょ!お母さんは見たくないのよ、ネズミは苦手なの!」
「しかも、腹ワタ出てるし!」

モリーは、どうしたらいいのかよく分からなくて、困っていました。すると、いつの間にか近づいてきたカイちゃんが、せっかくお母さんとサチちゃんに見せようと思っていた畑の近くで捕まえたモノに固いものをかぶせてしまいました。「モリー、おいで!」お母さんがまた呼んでいます。でも、捕まえたモノは、カイちゃんのせいでくわえられません。もうあきらめるしかありません。

仕方なくモリーは、お母さんの方へ走って行きました。

「カイ、あんたあのネズミを捨てるか何処かに埋めて!」
「オレ、嫌だ。サチがやれよ!」
「ええぇ、私がぁ?」

サチちゃんはスコップを持つと、カイちゃんがかぶせた植木鉢の方に歩いて行きました。


サチちゃんが後から語った話によると、モリーが畑の近くで捕まえたのは、やはりネズミだったそうです。それはもうネズミとしての姿をとどめていない哀れな姿だったそうです。可哀想なネズミのために、優しいサチちゃんはそれをゴミ箱に捨てることはせず、モリーが見つけて掘り出さないように深い穴を掘って埋めてやったということです。

モリーの思い出話でした。

ああ、I miss her ...


お帰りの前に1クリック を!



0 件のコメント:

コメントを投稿