ところがある日、黄斑変性でものが見えにくくなった人が、網膜のまだ見える部分を効果的に使うことで「見えにくさ」を改善するというような訓練も行なっていると知って、うちの夫の助けになるかもしれないと興奮して電話をして来たのは7月の終わり頃でした。
あれから随分時間が経っているんですけど、やっとその視能訓練士の方の診察を受けることができました。
何度も書いていますけど、うちの夫は先天性の黄斑変性である「スターガルト病」という病気なんです。網膜の中心部分にある黄斑と呼ばれる部分の周囲の視細胞がまだ若いうちから徐々に死んで来ていたんですが、ついに昨年左目が見えなくなりました。
今年の5月の終わりに撮ってもらった写真がこれです。
放射線状の細い血管が集まっている大きな黒い丸い部分は、視神経が集まって束になっている部分です。ここには光を感じる細胞が無いので「盲点」とも呼ばれます。
その横に薄っすらと少し小さめの丸が見えますが、それが黄斑です。
細胞が最も高密度で集まっている視野の中心となる部分で、いわゆる「見えるもの」の詳細を知覚する部分です。ものを見る時に焦点を合わせる部分でもあります。
黒い斑点は死んだ細胞です。夫の場合は、こうして細胞が徐々に死んでしまうのです。
ちなみに、私も今年の目の検査の時に同様の写真を撮ってもらいましたけどね、私の網膜の写真には視神経が集まっている丸い部分と少し薄い色に見える黄斑があるだけで、他には何の斑点もブツブツもシミも無いツルツルでしたよ。
それを見て、うちの夫の目がどれほど異常かが分かったのでした。
細胞が完全に死んでしまっている黒い部分ではもう光すら見えないわけですが、まだ細胞が生き残っている部分がありますよねえ。その部分を効果的に使うことで「見えにくさ」を改善できるんだそうですよ。
ということで、昨日行って来たんです。
様々な検査をしたそうです。
これだけ真っ黒な斑点だらけになっているんですからね、夫は相当見えていないんだそうですよ。この写真を撮ってからすでに半年以上過ぎていますから、さらに細胞は死んでいますしね。
ところが、実際には「はい、これを読んでください」と言われた様々なものが視能訓練士の方が驚くほど読めたんだそうです。
検査の結果分かったことは、うちの夫は自分でも気づかないうちに、自分で視能訓練をやっていたんです。まだ細胞が生き残っている部分を使ってものを見るために、焦点をぜんぜん違うところに合わせているんですって。
例えば、このブログを読んでいる貴方、普通なら文字に焦点を合わせて読んでいるでしょ?
ところが、うちの夫は、読もうとしている文字とは離れた所に焦点を当てて、視野の中心から外れた部分で読んでいるんですって。
どうやってそんな事ができるんだろうかと思いますけど、無意識にそうやってものを見ているんだそうです。
ちなみに、意図的に焦点を合わせる位置を変えると、全く文字が見えなかったりしたそうですよ。思っている以上にひどい状態なのです。
とにかく、視能訓練士の方が教えようとしている技を、夫はもうすでに獲得して使っていることが分かりましたので、今この視能訓練士さんができることは無いという事でした。
これからさらに細胞が死んで見えない部分が増えて来ると、今度は道具や機器の工夫が必要になるそうです。
この視能訓練士の方は、「NDIS(National Disability Insurance Scheme)」というオーストラリアの障害者保険制度への申請を勧めておられたんですけど、昨日の検査で本当ならもっと見えないはずなのに驚くほどまだ見えているので、今はまだ申請をするなとおっしゃったそうですよ。
1回目の申請で認められなかった場合、2回目がもっと困難になるんだそうです。
実は、本人は申請する気がありませんでした。
うちの夫は、障害者として認めてもらって障害者手当をもらうとか、そういうことをしたくなかったので、NDISへの申請には全く乗り気ではなかったのですよ。
ところが、視能訓練士の方によると、NDISで障害者として認められると、仕事を続けるために必要な道具や機器の購入に補助金が出るんだそうです。例えば、もっと大きなコンピューターのモニターを買うとか、視覚支援デバイスを買うとか。
それを聞いて夫はNDISへの認識が変わったようで、もう少し見えなくなったら申請するそうです。
それにしてもね、夫はメールやメッセージがスマートフォンの小さな画面でも読めますし、右目のおかげでまだ見えているのだと私は思っていたんですけど、「焦点をずらすことで見えるようにしている時には見えている」ってことなんですよ。
左右両方の目のまだ見える部分を使って、それぞれの見えない部分を補いながら見ているので、両目で見ている時には普通に見えているつもりでも、その視界の中には見えていないものがあるということなんです。
何だかちょっと怖いですね。
もう絶対に運転はしちゃあダメというのは、このせいです。
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