2023年11月27日

パーキンソン病がにおいで分かる女性

昨日の晩ご飯の時に、ほぼ食べ終わった頃ですけど、人間の病気をにおいで探知できる犬のことが話題になりました。

長年痔の問題があった女性がおられて、飼い犬が自分のお尻のにおいをかぎ続けるようになったので気になって医者に診てもらったところ、肛門がんになっていたことが分かったというニュースを読んだので、それを話題にしたんですけど。

そうしたらですね、人間でもそういう特別な嗅覚を持つ人がいて、パーキンソン病がにおいで分かる女性がいることをうちの夫が教えてくれたんです。

興味があったので「woman who can smell Parkinson's disease」(パーキンソン病がにおいで分かる女性)と検索してみましたら、ものすごい数のウェブサイトを見つけることが出来ました。

ニュースのサイト、大学のウェブサイト、研究機関のウェブサイト、科学雑誌のサイトなど様々です。まず、BBC放送の記事を読んでみました。この女性が「TED Talks」で講演をされている動画も見ましたが、大変興味深いことが分かりましたよ。

この女性は、スコットランドにお住まいのジョイ・ミルン(Joy Milne)さんという70歳代の元看護師の女性です。この方は、生まれながらの嗅覚過敏だったそうです。

子供の頃から、様々なにおいに敏感で、「良い匂い」も「悪い臭い」も大変良く分かり、「この人はこんな臭いがする」などと他人の体臭について話すのを聞いたお祖母さんから、「人のにおい」について話してはいけないと教えられたそうです。

ジョイさんは看護師でしたから、病院で働いていれば様々なにおいがします。病気特有のにおいにも気づくのですけど、ジョイさんはそうしたにおいについて誰かに話すことはありませんでした。

ジョイさんは、レスさんという男性と結婚されました。レスさんは麻酔医だったそうですが、男性らしいとても良いにおいがする人だったとおっしゃっていました。そのレスさんのにおいが、ある時から変わり始めたのだそうです。

レスさんのにおいの変化に気づいてから12年後、レスさんはパーキンソン病だと診断されました。

そしてある日、パーキンソン病患者の集まりに参加した時です。そこには、多くのパーキンソン病の患者さんがいたわけですが、患者さん達が放つにおいにジョイさんは耐えられず、トイレに駆け込んだほどだったそうです。

変わってしまったと思っていたレスさんのにおいが、パーキンソン病という病気特有のにおいだと気づいた瞬間でした。

ある時、パーキンソン病の研究や患者の支援をしている団体「パーキンソンズUK」のイベントに参加しました。このイベントで講演をしたのがエディンバラ大学の神経科学者ティロ・クナス(Tilo Kunath)医師でした。

ジョイさんは、このクナス医師にある質問をしたのですよ。

「Why aren’t you using smell to detect Parkinson’s?」(パーキンソン病の診断にどうしてにおいを利用しないのですか?)

クナス医師はジョイさんの話を聞いて、本当にジョイさんがにおいでパーキンソン病を探知できるのかをテストしたそうです。

パーキンソン病の患者6人とパーキンソン病ではない人6人の合計12人が24時間着用したTシャツをそれぞれ2つに分けたものが入った24個の袋のにおいをかいで、パーキンソン病患者のものを当ててもらったのです。

ジョイさんは、12人のうち7人がパーキンソン病だと判断しました。患者6人は100%の確率で正解でした。パーキンソン病ではない6人のうち1人だけを間違えました。ところが、その間違えたと思われた1人は、6ヶ月後にパーキンソン病だと診断されたのだそうです。

つまり、ジョイさんの探知は100%正しかったということです。

この結果、何がパーキンソン病特有のにおいを作り出しているのか、その仕組みを解明する研究が行われ、おもに首の後ろ側から分泌される皮脂がにおいの原因になっていることも分かって、結果的にはこうした部分を綿棒で拭き取った物質を分析することでパーキンソン病を診断できるようになったのだそうです。

診断が難しかったパーキンソン病を容易に診断出来るようになっても、早い段階で診断が出来たとしても、パーキンソン病を治す治療法が見つかっていません。現在行われている治療は、基本的に症状の緩和が目的です。

それでも、早期診断によってそうした治療を早めに始められることには意味があるでしょう。

ジョイさんの夫のレスさんは2015年に亡くなられましたが、ジョイさんに「においを病気の探知に役立てる研究への協力を続けるように」と言い残されたそうで、今も研究への協力を続けておられます。

例えば結核ですが、子供の結核は診断が難しいそうです。幼い子供は診断に使われる痰を吐き出すことが難しいうえ、肺以外の場所に感染していることも多いので、検査が簡単ではないんだそうです。

ジョイさんは、結核特有のにおいも分かるんだそうですよ。特有のにおいが作られる仕組みが分かって検査方法が開発されれば、子供の結核も診断が容易になるんですね。


病気になると、体内での様々な物質の合成や化学反応が健康な時とは変化します。物質にはそれぞれ特有のにおいがあるので、変化した物質が汗や皮脂、尿、吐く息などに混じって特有のにおいを作り出すというのは分かりやすいことです。

血液検査やX線検査、MRIといった検査方法がなかった時代には、医者は病気を診断するために患者のにおいをかいでいたんだそうですよ。日本には患者の体臭をかいで病気を診断する「嗅診」と言う言葉もあるそうです。

ただし、医者とは言え普通の人間の嗅覚には限度がありますから、犬を利用しようという取り組みもあるわけですけど、病気を探知できる犬のトレーニングは簡単には出来ないわけですし、どの医療機関でも利用できるようにはなりません。

パーキンソン病の診断に開発された「綿棒を使って皮脂を拭き取る検査」のように、容易に利用できる検査方法があれば病気の早期発見にも役立つでしょう。

においを病気の診断や探知に利用しようという研究は、世界的に活発になっているそうです。ジョイさんのように特別に敏感な嗅覚を持つ人間が、こうした研究に協力することには大きな意味があることでしょう。


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