洗濯物に夫のジーンズやジャケットが混じっている時は、ポケットの中をチェックする癖がある。ポケットの中にティッシュだか何かの紙が入っていて、洗濯中にそれが溶け、一緒に洗った物が真っ白け!になってしまったことが何度もあるからだ。洗濯物にへばりついた細かい紙の繊維は、パンパン振り叩いたところで取れるものではない。
今朝も、夫のフリースジャケットが洗濯に出してあったのでポケットをチェックしていたところ、指に触れたのは紙ではなく、カリカリ(というかコリコリという感じか…)に丸く固まったハンカチであった。オーストラリア人達の言葉を借りれば、 クランチーハンキー Crunchy Hankie (カリカリのハンカチ)である。クランチーという言葉は、通常カリカリパリパリした食感を表現するのに使われる言葉だか、まあそのような感じのハンカチとはいかなるものか、想像していただきたい。
通常、ハンカチは綿製で、絹製とか綿と化繊の混紡というのもあるが、要するに薄く柔らかい布である。ぬれた手を拭いたり、汗を拭ったりするのに使用するものだ。その布が、なぜクランチーなボール状になって夫のフリースジャケットに入っていたかと言うと、これで鼻をかんだからである。しかし、鼻水を1度や2度拭った程度ではクランチーなボール状にはならない。何度も使用していることが必要条件!(ああ、気持ちワルイ!)
あなたは、このクランチーハンキーをそのまま自分の服と一緒に洗濯できます?
クランチーハンキーは、結婚16年を迎える私にとってもいまだに「難敵」である。まず、触りたくないし、自分の洗濯物と一緒に洗うなんてできないし、そのまま捨てるというのもためらわれるし。(実は1度捨てたことがある。あの時のクランチー度はひどかった。)どうするかというと、端っこの方の比較的安全部分をつまんで、湯をためた流しにしばらく浸けておく。しばらくしてカリカリになった鼻水(鼻汁)が柔らかくなったと思われる頃、また端っこの安全部分をつまんでザブザブとすすぐ。このくらいやれば大丈夫!と自分が納得するまでサブサブジャブジャブとやってから、洗濯機に放り込むのである。
夫も、家では鼻をかむのにティッシュを使っている。私の家族は、みんなアレルギー性鼻炎持ちなので、家の至る所にティッシュの箱がおいてあるのだ。私は、外出の際にも困らぬように、バッグの中にはいつもクリネックスティッシュの携帯用パックを入れている。ところが、驚くことに、この携帯用クリネックスティッシュは、箱入りのティッシュよりも厚手で、形状もハンカチの様に正方形をしており、端には模様がエンボス加工されているのである。これは何を意味しているのであるか。
夫は、外出にバッグを持ち歩いたりしない。かさばるポケットティッシュを持ち歩いたりもしない。外出時に鼻をかむ必要があれば、使うのはハンカチなのだ。ここで、広く皆さんにお伝えしたいのだが、夫に限らず、ほとんどのオーストラリア人は鼻をかむのにハンカチを使用している。普段ハンカチなど持ち歩かないくせに、風邪などひいて鼻かみの必要性を感じている人は、まず例外無くハンカチを携行している。老いも若きも子供も、男も女も、美女も美男も、である。
今でも忘れられない光景がある。以前小学校で日本語を教えていた時のことだ。私の教室に1年生のクラスがやって来た。そのクラスにはサムという名前の元気な男の子がいた。この日、サムは真っ赤な鼻をして、鼻をすすりながら入って来た。風邪をひいているようだった。授業中、「ブーッ」という大きな音がした。みると、サムがハンカチで鼻をかんでいた。かみ終わると素早くジャンパーの袖の中にハンカチをしまうサム。ポケットではない、ジャンパーの袖口にしまったのだ!しばらくすると、再び袖口からハンカチを取り出し、またもや盛大な音を立てて鼻をかむ。そのうち、使用可能な部分が減って来たと見え、サムはかむ前にハンカチの乾いた部分を探しては、ちょっとだけ鼻水を拭ったりしていた。
サムの鼻かみ様式は、あの小さな少年が自ら考えついたもので無いことは言うまでもない。大人がやっているのを見て学習したのである。鼻をかんだ後に、「ぐにゃぐにゃっ」というか「ぶるぶるっ」というか、鼻の頭を擦り揉むように細かく動かす動作も、まさに多くのオーストラリア人が為すところである。
その後、幾度となくハンカチで鼻をかむオーストラリア人を見て来たが、共通しているのは、乾いた所がなくなってしまうまで何度でも使用し続けること。使用後のハンカチは、ポケットにしまう場合がほとんどだが、上着など長袖の服の袖口にしまう場合も多いこと。体温と風通しで乾きやすいのであろうか。使用済み部分も乾けばまた使用可能となる。そして、何度も何度も乾いた部分を探しながら使用を続けて行くうちに、ハンカチは折り畳んだ状態からしわくちゃのボール状へと変化して行くということだ。
それからまた、オーストラリア人は、概して鼻をかむ時に、「ブーッ」とか「バォーン」とかとにかく盛大な音を立てるということ。そして、他人の目の前も平気でかむということ。我々日本人は、鼻をかむという行為をできれば他人に見られたくないし、他人が鼻をかむのも見たくないという意識がある。だから、できる限り他人がいる所では鼻をかむという行為を避ける傾向があるけれども、どうしてもその必要がある場合、できるだけ音を立てないように、場合によっては後ろを向いて他人の目に入らぬようにして、ひかえめにその行為に及ぶことが多いではないか。
ハンカチで鼻をかむこと。小さな文化の違いである。しかし、私は今でも、クランチーハンキーに遭遇する度に、「ああ、もう勘弁してョ!」と叫びたくなるのである。
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