2011年10月6日

白いウエディングドレス

先日ベンディゴに行って来た。ベンディゴというのは、街の名前である。メルボルンの北西およそ150キロのところにある地方都市だ。ヴィクトリア州では4番目に人口が多い。1851年にこの地で金が見つかって以来、多くの移民が一攫千金を夢見て集まりゴールドラッシュの繁栄が続いた街で、1862年にメルボルンと鉄道で結ばれた頃より街は大きく発展し、その富により数多くの豪華な建物が建築された。今も残るそれらの歴史的建造物や豪勢な大邸宅が当時の繁栄をしのばせている。

この街のベンディゴ・アートギャラリーで、「白いウエディングドレス(The White Wedding Dress)」と題したエキシビションが開催されているというので、友達に誘われて見に行ったのだ。ワールドプレミアと大々的に広告しているので、これから世界各地でこのエキシビションが開催されるのであろう。


私の家からベンディゴへは、まずリングロードと呼ばれるM80のフリーウェイで西に向かい、M79のコールダーフリーウェイへ入る。M79に入ったら後はベンディゴまでまっすぐ行くだけだ。メルボルンから地方へ伸びるフリーウェイは、どの道路も大変良く整備されていて分かりやすく、とにかく景色が良い。フリーウェイに入ってからはベンディゴまで約1時間半のドライブだった。

ベンディゴの街の中心地区に入り、ハイストリートを真っすぐ行くと、まず目に入ってくるのがセイクリッドハート大聖堂(Sacred Heart Cathedral )の巨大な建物。丘の上に建っているので余計に大きく見える。


そして、次々と歴史的な建物や美しい公園が見えてくる。建物はどれも豪勢な格調高いデザインで、とにかく大きい。通りの中央には路面電車の線路が敷かれ、可愛らしい小さな赤い路面電車が走っていた。見ると、運転士は大きな白いひげをたくわえたおじいさんで(おじいさんのように見えただけかもしれないが)、赤いストライプの入った黒っぽい帽子をかぶっていた。街として観光業に力を入れていることがうかがえた。

我々はアートギャラリーを目指していたので、美術館らしい建物を探した。おそらくエキシビションの広告なども出ていることと信じて。「あっ、きっとあそこじゃない?」と目に留まったのは、太い柱が目立つ博物館風の大きな建物。建物の前に車を止めてよく見ると「郵便局」と書かれていた。何とも格調高いすごい郵便局である。ここに、旅行者用のインフォメーションセンターがあったので、入ってギャラリーの場所を訪ねることにした。

ベンディゴ・アートギャラリーは、ハイストリートには面しておらず、郵便局の裏手の小高い丘の上にあった。郵便局がある街の中心地区には、ロザリンドパークという公園があり、この公園の周辺にほとんどの歴史的な建物は集中している。



アートギャラリーはエキシビションを見に来た多くの人で混雑しており、入場は時間制になっていた。我々は午後1時入場のチケットを買い求めた。駐車場がいっぱいだったので少し離れた運動場の近くに車を止め、持参のサンドイッチで昼食をとってからアートギャラリーまで歩いた。

エキシビションを見学している人は、99.8パーセントが女性であろうと思われた。数人の男性が、ドレスを見もしないで退屈そうに連れの女性が見学し終わるのを待っている。(こういうのは、やはり夫や息子とくるところじゃないな。彼らは、古いウエディングドレスのレースや刺繍に興味など無いのだから。)

さて、このエキシビションだが、テーマは「白いウエディングドレス(The White Wedding Dress)」で「ウエディングファッションの200年」という副題がついていたので、私は200年前から現代に至るまでの数々の素晴らしいウエディングドレスが見られるものと期待していたのだが、正直なところ少し期待はずれであった。確かにたくさんのウエディングドレスがあったが、多くは比較的新しいドレスで、それらの新しいドレスは、デザイナーが奇異をてらったか斬新さを見せびらかそうとしたとしか考えられないようなドレスが多かったからだ。

その一つが、まだらに染めたTシャツに白いロングスカートをくっつけたようなウエディングドレス。隣で見ていた夫人が「This is hideous! (これは、ひどいわねえ!)」とささやくのが聞こえた。また、歌手の小林幸子さんが紅白歌合戦でお召しになるのにふさわしいような相当重量のある極彩色ドレスもあったし、私には理解不能なドレスがたくさん。まあ確かに、ウエディングファッションの歴史の一部ではある。

心に残ったのは、やはり古いドレスである。ひと針ひと針縫い込んで作ったレースや刺繍の複雑なパターンとそれらの見事さ、美しい小さなくるみボタンの一つ一つ、ところどころに見られる細かい縫い目の一つ一つに心が震えるほど感動した。百数十年前、それらのドレスを作った女性たちを想像してみる。どれほどの賃金をもらって働いていたのだろうか。機械の無い時代に、その手に一本の針を持って、これほどの芸術品を作り上げた女性達。ベールに使われた1枚のレースにしても、その1枚を作るためにどれほどの時間を要したであろうか。

少しばかり期待はずれのエキシビションではあったが、いくつかの言葉にならないほど素晴らしい手仕事を見ることができたので、やはり片道2時間かけて来たかいはあったと思う(ことにする)。

このエキシビションは、11月6日までベンディゴ・アートギャラリーで開催されています。Facebookのオフィシャルページをご覧ください。
The White Wedding Dress: 200 Years of Wedding Fashions


お帰りの前に1クリックを!



0 件のコメント:

コメントを投稿