先日、うちの夫にメルボルン大学医学部からメールが届いたそうです。夫は、死んだ後に献体することを登録済みなので、その件かと思ったんですが違いました。メールは先天性の黄斑変性「スターガルト病」(Stargardt Disease)を研究しているチームからでした。
うちの夫が「スターガルト病」で目が見えなくなって来ていることは、このブログでも度々話題にしています。
初めてこの病気があることが分かったのは、今から10年前の2016年でした。眼鏡が必要になって視力検査をした時に偶然見つかったんです。その時に撮ってもらった網膜の写真がこれです。
放射線状の細い血管が集まっている大きな黒い丸は、視神経が集まって束になっている部分です。その横に薄っすらと少し小さめの丸が見えます。それが「黄斑」です。
視細胞が密集していて黄色っぽく見えるので「黄斑」と呼ばれるそうです。目の中に入ってきた像が結ぶところで、視野の中心になる部分です。
黄斑周辺が黒ずんで見えていますが、細胞が死にかけている稀な状態だそうです。その中に真っ黒いシミのような点々が見えると思います。それが視細胞が完全に死んでしまっている部分です。この時点では視力の異常は自覚していませんでした。
あれから10年、黒い点々は徐々に増えて、それぞれが広がって隣りの黒い点とつながったりしながら大きくなり、現在は下の写真のように全滅に近づいています。
黄斑変性という病気には、加齢が原因のものもありますが、先天性の「スターガルト病」は、特定の遺伝子に変異が起きて発症します。夫の場合は、母親からその変異が遺伝しました。
「スターガルト病」には、現在のところ治療法も進行を遅らせる方法も見つかっていません。病気が見つかった時には、「出来ることは見えなくなる時に備えることだけだ」と言われたんですよ。失明の宣告です。
この病気だと分かった時に、眼科医からメルボルン大学に連絡が行き、うちの夫は大学に依頼されて研究に協力したんですが、今回新たに協力を依頼されて、先日電話でインタビューを受けたそうです。
メルボルン大学の研究チームが、この遺伝子変異のメカニズムを解明して、どういう変異がどのように病気を引き起こすのか、そして病気がどのように進行していくのかを突き止めようとしていると聞いた夫は言いました。
「2016年に病気が分かってから10年間、毎年1回網膜の写真を撮ってもらって来たんですけど、その写真に興味がありますか?」
「え?10年分の写真?あるんですか!」
「あらゆる検査も毎年受けて来たので、そのデータも10年分あります」
「本当ですか!」
研究者は大興奮だったそうですよ!
「スターガルト病」は、患者数の少ない稀な病気です。そして、毎年検査を受けても、患者にとっては何のメリットも無いんです。治療法が無いんですからね。写真を撮ってもらっても、「1年でこのくらい悪くなったんだな」と分かるだけです。
それに、写真も検査も結構な費用がかかりますから、「スターガルト病」の患者で毎年網膜の写真を撮ってもらって検査を受けている人なんて、まずいないと思いますよ。
10年分の写真は夫も私も持っていますが、検査のデータは眼科医が持っていますので、そのデータをメルボルン大学の研究に役立ててもらうことになりました。また、DNAを提供して遺伝子変異の研究にも協力することになったそうです。
研究に協力するための同意書がメルボルン大学から送られて来たので、夫が署名をして送っていましたよ。10年分の写真と検査データが研究の役に立つことになって、夫は大変喜んでいます。いつかこういうことがあるかもしれないと期待してやって来たんだそうですから。
そして、研究によって「スターガルト病」の遺伝子治療が開発されたら、うちの息子や娘にも恩恵があるかもしれません。この病気の遺伝子変異は遺伝するので、もしかしたら息子や娘にも遺伝しているかもしれないからです。
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初めまして、コメント失礼します。スタルガルト病について検索してこの記事に出会いました。
返信削除私は日本に住んでいて、私の夫も現在30代後半でスタルガルト病発症者です。発症時期は10代前半のようです。
現在まで片目の中心部が見えにくいのみで視力に特に問題はないようなのですが、先日検査をしたところもう片目も変異が見られるということで本人はとても落ち込んでいました。
親族に目の病気の人はいないようなので、突然変異だとは思うのですが、私たちの子どもに遺伝するかどうかも本人がとても気にしています。
義両親の遺伝子検査などは多分していないとは思うのですが、できる機関があるならした方が良いのでしょうか。
日本では情報が少なく、こちらの記事に辿り着き、夫さんの状況等が知ることができ感謝していますと同時に、私も心の準備が必要だなと感じました。
現在夫はひどく落ち込んでいて、進行性で治療法がない病気、大丈夫だよも嘘っぽくなってしまうかと思い、本人にどう声かけしていいかがわかりません…
進行も今までは比較的緩やかだったので、急に進行するかもしれないという恐怖も本人にはありますよね。
夫さんはどうやってご自身の病気を受け入れられたのでしょうか、また日常生活で気をつけていることがあれば教えていただけましたら幸いです。
長々とコメントを失礼いたしました。
お返事が遅くなりました。コメントを頂いていたことに気づいていませんでした。
削除ご心配ですね。日本ではこの病気の情報が少ないとのことですが、オーストラリアでも同じです。とても稀な病気だそうですから。
ご主人、落ち込んでおられるとのこと、お気持は分かります。しかし、この病気は将来見えなくなる時に備えるしか出来ることはありません。受け入れるしかない病気です。それが現実です。
お子さんに遺伝する可能性はあります。ただし、どの遺伝子のどういう変異が病気を引き起こすのかが解明されていない以上、遺伝子検査も出来ません。うちの息子と娘は、視力検査に行く時に眼底の検査をしてもらっていますが、今のところ変異は見つかっていません。しかし、たとえ変異が現れて病気が遺伝したことが分かっても、病気の進行を止めることも遅らせることも出来ませんから、心構えをして将来に備えるだけです。見えているうちにできるだけ楽しむとかも含めてです。
うちの夫は病気の進行がゆっくりでしたから、まだ見えている間は忘れて暮らしていましたが、ついに症状が出始めたと気づいた時には、すでに車の運転に適正な視力がなくなっていましたので、運転免許証を返納しました。
運転が出来なくなったことで自由を失った気持ちになったそうですし、誰かに頼らなくては移動ができないことが嫌だったようですが、交通の便の良い場所に引っ越してからは、公共交通機関やウーバーを利用することは今では不自由なくどこにでも行きます。
家族が声をかけるとしても、「大丈夫だよ」も「何とかなる」も嘘になりますよね。見えなくなるのは確実なんですから。でも、全く真っ暗闇になってしまうわけではありません。視野の外側ではぼやけているとは言え見えるんです。病気の進行に伴って確かに出来ないことは増えて行きますけど、工夫によって日常生活の多くのことが出来るんですよ。
うちの夫は、母親がこの病気でしたから覚悟していたので、冷静に受け入れたと思います。現在はかなり見えなくなって来ていますが、3種類の眼鏡とスマホやコンピューターの様々な機能を使って、仕事も出来ていますし、テレビや映画も見ています。本は読めませんが、オーディオブックというのがありますから、それを聴いています。
はっきり言って、あきらめるしか無いことはありますよ。それを悲しんでいても仕方がないので、自分に出来ることをやり方を変えたり工夫することで何とかやって行くことです。
日常生活で気をつけていることは、状況に合わせた安全対策が主です。見えているつもりでも見えていないものがあるので、物につまずいたり引っかかったりして転倒して怪我をしたりしましたから。どのような注意が必要かは、ご本人が徐々に分かって来ると思います。
今は落ち込んでおられても、きっと現実を受け入れて前向きに暮らして行こうと思うようになられると信じます。
書き忘れましたが、紫外線からの目の保護は大切だそうで、夫はサングラスを使っています。ただし、視界が薄暗いと見えなくなるので、状況に応じて使っています。「スターガルト病」で検索すると、これまでに書いた記事を見つけていただけるので、ご主人がこれから経験される可能性のある症状のことなど、参考になることがあるかもしれません。
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