夫がDVDを借りてきた。映画のタイトルは、「テンプル・グランディン」という。
テンプル・グランディンというアメリカ女性のことは、あるドキュメンタリーTV番組で見て知っていた。
そのドキュメンタリーというのは、「The Woman Who Thinks Like A Cow」という番組で、これは家畜(主に肉牛)の屠殺施設において、家畜を虐待的に取り扱うシステムを改善し、牛の気持ちになって考えることで、家畜がより安心して安らかに処理されることができるシステムを考案した動物学博士であるグランディンさんのことを紹介する番組であった。
しかし、番組のテーマは、家畜の権利保護とかいったものではなく、このグランディンさん自身であり、彼女が自閉症をいかに克服し、何を成し遂げ、現在どのような活動をしているのか、といったことを紹介するものだった。
グランディンさんは、1947年生まれで、2歳の時に脳に障害があると診断された。その後、1950年代になって自閉症と診断されたのだが、自閉症がまだ社会に認知されていないどころかどのような障害なのか良くわかっていない時代である。
そんな時代に生まれ育ったグランディンさんだが、無条件の愛情で献身的に支えてくれる母親や叔母、そして小学校卒業後に良い指導者に恵まれたことで、ハイスクールでは自分の可能性を強く自覚して大きく成長し、その後、幾多の差別や困難に直面しながらも動物学博士を取得するにいたる。
グランディンさんは、現在、自閉症の啓蒙活動において世界的に大変影響力のある人で、多くの講演活動を行っているし、著作もいくつかあるのだが、「我、自閉症に生まれて(Emergence: Labeled Autistic)」という著作は特に有名だ。
この本は、自閉症者本人が、自分が抱えるコンディションの特性について書いた世界で初めての本で、自閉症者にとって世界がどのように感じられ、どのようなことが苦痛であり、どのようなことに安堵するか、社会と折り合いをつけるのにどのような壁があり、それをどのようにして乗り越えてきたのかが、本人によって語られる。
ダニエル・タメットという英国人のサヴァンが書いた「ぼくには数字が風景に見える(Born on a Blue Day)」も、大変興味深かった。タメットさんは、てんかんやアスペルガー症候群を抱えていたが、成長するにつれ暗算や暗記および言語の習得に関して常人では考えられらないような非常に高い能力を見せるようになったサヴァンだ。
自閉症やサヴァンといったコンディションを抱える人の多くは、自分のコンディションについて、詳しく説明したり第三者的に分析したりすることは困難である。だからこそ、グランディンさんやタメットさんのような人の話は、研究者やそうしたコンディションを持つ人の家族などにとっては大変貴重でもある。
グランディンさんの著作や講演活動などを通して語った内容をもとにして作られたのが、アメリカのHBO制作テレビ映画「テンプル・グランディン(Temple Grandin)」であった。
グランディンさんを演じた主演のクレア・デインズは絶賛され、エミー賞やゴールデングローブ賞などのテレビ映画部門で主演女優賞を獲得したそうだ。確かに、素晴らしかった。
映画にも登場するが、自分自身のパニック発作を抑えるため、家畜にワクチンなどを接種する際に用いられる締め付け機にヒントを得て設計製作した、Hug machine (ハグマシーン)は大変有名である。自閉症の特性の1つでもあるが、彼女は身体的な接触を嫌うために、だれかに「ハグ」される(抱きしめられる)ことで得られる心の平安というものを知らなかった。これを、このマシーンで実現するわけだ。
素晴らしい映画だった。グランディンさん本人も、この映画のできや主演のクレア・デインズの演技を絶賛している。おススメです。
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