しかし、私達のライフスタイルに犬を飼うということが合っているのかどうか、私は不安でした。
何事にも三日坊主傾向のある夫、面倒なことはとにかく避けることを信条とする息子のカイ、精神的に不安定な娘のサチ。
結局、犬の世話は、誰がすることになるのでしょうか?(火を見るよりも明らか!)
「まずは1年だけのトライアルというのをやってみよう」ということで、夫がかねてから興味を持っていた盲導犬のパピーウォーカーをやることにしました。
パピーの世話やトレーニングは、ほぼ私の仕事となることを同意の上で。当時、私は専業主婦状態でしたしね。まあ、仕事と思ってやってみるかと。
セミナーに参加してパピーウォーカーについての講義を聞き、Guide Dog Victoria(ヴィクトリア州盲導犬協会)に申し込み、家の環境チェックとインタビューを受けて合格となりまして、昨年6月に我が家にやって来たのが生後7週目の「モリー」。
不安そうなモリー |
まず最初のハードルはトイレトレーニング。将来、指示した時におしっこやウンチができるようにしなければなりません。英語で「Toilet on command」と言います。
2時間おきくらいに裏庭に連れて出て(夜中も)、おしっこやウンチが出た瞬間に「クィックィックス」という声をかけてやるんです。賢いモリーは、「クィックィックス」がトイレの指示だとすぐに理解し、裏庭に連れて出て「クィックィックス」と言うと、おしっこやウンチができるようになりました。家の中での失敗はほんの数回でした。トイレトレーニングは、本当にうまくいきまして「流石にガイドドッグのパピーは賢い!」と感激。
しかし…。
あれよね、皆さん。ラブラドールレトリバーという種類の犬は「破壊者」なんですよね!
デストロイヤー!
デモリッシャー!
家の中をかじるんです。テーブルや椅子や、ソファやキャビネットや、カーペットや壁を、あの小さいモリーが破壊しまくるんですよ!(小さいと言いましたが、小さかったのは最初の1ヶ月くらいなもんで、文字通り「あっ」という間に大きくなりました。)
モリーは、退屈していたってのもあるとは分かっているんです。
なにしろ、モリーがやって来てすぐに翻訳の大きな仕事が次々と入るようになり、私はモリーと仕事との両立に大変苦労しました。モリーがしょっちゅう寝ているのでなんとかやれたんですけど。(毎晩遅くまで仕事したし…。)
退屈だったんだよ。もっとかまって欲しかったんだよ。もっと外で遊びたかったんだよ。走り回りたかったの…。
でもねえ、盲導犬のパピーは、普通の子犬が楽しむ「フェッチ(ボールや木の枝とか投げて取ってくる遊び)」とか「ダグ・オブ・ウォー(綱引き)」とか興奮させる遊びをしてはいけないんです。しても良い遊びは限られているんです。
モリー、遊びたかったんだよな…。
そしてですねえ、私達、ちょっと買い物に出る時などは、クレートに閉じ込めておく(可哀想な気もするけど)という予防策を講じるべきだったんです。
だって、帰ってきたらこの有様。
カーペットの下のクッション材がボロボロに |
トイレットペーパーを持ってきて遊んだらしい |
怒ってはいけないと言われていました。だから怒ってはいけないのです。「こらっ!モリー!!!」と名前を言うのもいけないんですよ、こういう状況で。
モリーがいなくなった今も、我が家は傷だらけです。カーペットはボロボロです。いたるところの壁に穴が開いています。これもいい思い出…なはずがないでしょ。
さて、一番大事なトレーニングは、外歩き。最初は、ご近所の散歩から始めます。我が家の周りは田舎環境ですから、草と木ばっかりです。
それから交通量のある道へ、人がいるカフェやお店の近く、公園、階段のある場所、歩道橋、商店街、スーパーマーケットの中、そして小さめのショッピングセンター、大きなショッピングセンターと、段階を追って慣らしていきます。
このトレーニング中の大きなハードルは、物の匂いを嗅いだり、遭遇する他の犬や鳥や猫を追いかけたり、地面に落ちている食べ物に気を取られたり、「あれっ、あれは何だろ!」とよそ見をしたり、そういうことをしないようにしなくてはならないということ。
ただ黙々と、何かに気を取られることなく、歩くことにだけに集中して歩けるようにならなくてはいけないということでして、これがまあ犬の本能に反しているわけですから大変なんです。
ラブラドールレトリバーという種類の犬は食いしん坊で食べることが大好きなので、トリート(ご褒美)のドッグフードを駆使して、このトレーニングをおこないます。
おおっ、ドッグフードといえば。
盲導犬パピーはですねえ、決められたドッグフード以外のものは食べさせないんです。そして、ドッグフードは必ずフードボウルに入れて食べさせます。食べ物は家にあるフードボウルに入っているものだけ。だから、モリーは私達家族が食事をしているテーブルにやってきて食べ物をねだることはありません。だって、そこに自分の食べ物はないんですから。道に落ちている食べ物も「おや、なんだかいい匂い」と気にはなっても、そんな所に食べ物があるわけないんですから無視できるようになるんです。そう、彼女の食べ物は、家のフードボウルの中にだけあるんです。
翻訳の大仕事に追われて毎夜遅くまで仕事をしていましたから、私はどんどん疲れていきました。それでも責任感の強いこと有名な私ですから、モリーのトレーニングには全力を尽くします。(正直、モリーは可哀想だなって思いましたけど、これはいつかモリーが助けることになる目の不自由な誰かのためと信じて。)
このトレーニングも、かなり順調に行きました。ただ、どうした理由かいろんな所でしょっちゅう出くわす「フランキー」という名前のビーグルが、モリーを狂わすんです。フランキーに出くわすと、どんなに美味しいドッグフードを手に「Leave it!」の指示をしても、モリーったら完全に狂っちゃってるから効き目なし!
パピーウォーカーの家からGuide Dog Victoria(ヴィクトリア州盲導犬協会)の犬舎に戻り、本格的な訓練を受けるかどうかをテストするアセスメントの時に、もしフランキーに遭遇したら不合格は必至だだなこりゃ!と、いつも冗談を言っていました。
モリーのことは完全に私任せにしていたわけでなく、夫も時間を見つけてはモリーのトレーニングに励みましたよ。夏場は遅くまで明るいので、夫は仕事から帰ってモリーを連れて出かけていくのです。とにかくいろいろな場所に慣れることが必要ですからね。
ところが、そんなある日のこと。
私の右膝に異変が!
(つづく)
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