英国の超有名シェフ、ヘストン・ブルーメンソール(Heston Blumenthal)さんは、天才とかマッドサイエンティスト(常軌を逸した天才科学者)とか言われていた方で、この方のレストラン「ファット・ダック」(The Fat Duck)は、普通の人間には思いつかないような創作性に富んだ料理で超有名です。
ちなみに、日本ではヘストン・ブルメンタールと表記されているようですが、実際の発音は「ブルーメンソール」に近いんですよ。「ソ」は「th」の発音ですけど。
ヘストンさんのテレビ番組も大人気で、私達家族も夢中になって見たものですが、特にうちの娘がヘストンさんの大ファンでした。ヘストンさんの料理本も持っていますよ。
「でした」と過去形になっているのは、急にヘストンさんをテレビで見かけることが無くなって、過去の人になってしまっていたからです。ヘストンさんが双極性障害(Bipolar)と診断されて治療を受けているというニュースを読んだのは一昨年のことでした。
このブログでも度々話題にしている双極性障害という病気は、以前は「躁うつ病」と呼ばれていた脳の病気です。うちの夫が双極性障害なので、私達家族は一般の人よりもこの病気についてよく知っています。娘は臨床心理士ですからもちろん専門家なのですが、ヘストンさんが双極性障害だと聞いた時には「ああ、なるほどそうだったか」と合点がいったものですよ。
昨日、BBCのサイトにヘストンさんの健康問題に関する記事が載っていたので読んだんですが、現在は安定していているそうです。双極性障害という病気についての理解を深めるために、自身の健康問題についてオープンに話をされているようです。BBCがドキュメンタリー番組を制作したということも書いてありました。
「天才と狂気は紙一重」とも言われますけど、人並み外れた才能を発揮する人達の中には、双極性障害の人が本当に多いです。「躁状態」の時に天才的な能力を発揮するんですよね。ただし「躁状態」は「常軌を逸した行動」に繋がりますから悲劇的な問題を引き起こすことが多いですし、周囲にいる人達は苦しむんですよ。
BBCの記事には、ヘストンさんの家族の苦労も少しだけ触れられていました。ヘストンさんは最初の奥さんと離婚されていますが、ヘストンさんのお子さん達も、離婚された後にパートナー関係になった方々も、レストランのチームの皆さんも、周囲にいる人達は大変だっただろうと思います。
双極性障害は周期的に「うつ状態」にもなるわけですから、人々の期待に応えなくてはいけないというプレッシャーの中で、ヘストンさん自身も「うつ状態」の時には苦しかったはずです。
双極性障害の有名人が病気についてオープンに話すのは良いことだと思います。症状の程度に差はありますが、双極性障害は珍しい病気ではないんです。世界的には100人に1人がなると言われているそうですから、もっと社会的に理解される必要がありますから。
The Guardianのニュースサイトにも記事が載っていました。ヘストンさんが育った家庭環境や妹さんやお母さんの病気など、もっとプライベートなことにも踏み込んでインタビューに答えておられます。
このインタビューで双極性障害の特徴について尋ねられたヘストンさんが、AI(人工知能)に双極性障害の特徴を教えてくれと言う場面があるんですよ。AIは「双極性障害は、気分、活力、活動、集中力、日々の仕事を遂行する能力に異常な変化を引き起こす精神疾患です」答え、次のような特徴を上げました。
躁状態の特徴には「異常に高揚した気分、あるいはイライラした気分」「活力と活動量の増加」「思考が頭をめぐる状態」「睡眠欲求の低下」「過剰な自尊心や誇大妄想、危険な行動」などがあります。
うつ状態の特徴は「持続する悲しく空虚な感情」「活動への興味や喜びの喪失」「大幅な体重減少または増加」「不眠または過眠」「疲労またはエネルギーの喪失」「無価値感や罪悪感」「集中することや意思決定が困難になる」「死や自殺について考える」などです。
ヘストンさんはこれを聞いて、自分にはすべてが当てはまると答えたそうです。うちの夫にもすべてが当てはまると私は思います。
具体的な行動は人それぞれでしょうけど。例えば「異常に高揚した気分」の結果、何をするかというのは人によって違います。
うちの夫は、次々と「素晴らしいアイデア」が湧いて来てじっとしてはいられず、夜中にも起きて計画を立てたり電話をかけたりしていましたよ。言っていることやしていることが常識を外れているんですけど、他人の意見など聞きません。平気で高額な買い物を繰り返しましたし、些細なことに腹を立てていました。会社の上の人と衝突してクビになったりもしましたよ。
ヘストンさんの場合は、奥さんが耐えられなくなって実家に戻ってしまった後、電話をかけて来たヘストンさんが話すことの異常さに気づいた奥さんが、知り合いの市長さんに相談したんだそうです。ヘストンさんは強制的に病院に運ばれて精神科病棟に隔離されたんだそうですよ。本人が病院に行くことを拒否したからです。
治療が功を奏して今では精神状態は安定しているそうですから、ヘストンさんは強制的な入院治療によって助かったとも言えます。
これをお読みの皆さんの中に、家族や身近な人が双極性障害かもしれないと思われる症状でお困りの方もいらっしゃるでしょう。
双極性障害は、適切な治療を受ければ改善出来る病気です。当事者本人が受診する意思がなくて説得が困難な場合は、ヘストンさんのように強制的な治療が必要な場合もあります。家族の方が医療機関に相談するのがいいと思いますよ。
そして、この病気のことを隠したりしないことが大事です。
いまだに社会には精神的な病気への偏見がありますけど、これを変える必要があります。双極性障害も、治療が必要な脳の病気の一つで、誰にでも起こる可能性があると意識が変われば、診察を受けに行きやすくなるはずですからね。
ただね、こうした病気の治療を行う医療機関が無い地域が多いことは問題ですよね。私は一時期、家族と日本に住んでいた頃にうつ病を患ったんですが、近くに相談出来る医療機関がなくて困りました。でもそれは20年も前のことです。
現在は精神疾患やメンタルヘルスの問題で相談できる窓口がどの都道府県にもあるそうですから、お困りの方は相談してみてください。オーストラリアにお住いの方は、まずはかかりつけのGP(一般家庭医)に相談すればいいですよ。
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