2011年9月23日

日に焼かない日焼け

先日スーパーに買い物に行った時、支払いのレジのところに無料マガジンが置いてあったので1冊もらって帰って来た。春の食材を使ったレシピなどが満載で興味深くページをめくっていたところ、ある広告に目がとまった。Le Tanというブランドの日焼け色スプレーの広告で、「無料サンプルプレゼント中!」というフレーズが赤色で目を引いている。小麦色に日焼けした女性の手足の写真がレイアウトされている。「春だからなあ!今年もまたそういう季節がやって来たんだよ!」と、私はちょっと笑った。

この商品の名前は「Fast Tan」という。パッケージデザインには、「インスタント、自然な色、ビタミンE配合」という言葉も見える。これは、日焼け促進ローションとかそういったものではなく、茶色い液体のスプレーである。Tan(タン)とは日焼けとか日焼けの色という意味で、この商品をよくシェイクして肌に吹き付けると、たちどころに日焼けしたような小麦色にすることが出るというものである。ビューティーサロンに行かなくても自分で簡単にできますよと、よく宣伝している。フェイクタン(ニセモノの日焼け)と一般的に呼ばれているようだ。

スーパーのスキンケア商品コーナーに行ってみると、日焼け止め商品以上の棚スペースを様々なフェイクタン商品が占拠している。スプレーだけではない。ムース状のものもあるし、パウダリーファンデーションのようにスポンジでつける固形タイプやブラシでつけるパウダータイプやチューブに入ったクリームタイプなどなど、フェイクタン商品のバラエティーは多様だ。街でも、スプレータンとかフェイクタンというサインを出したビューティーサロンを至る所で見かけるので、この「ニセモノの日焼け」は、よほどの需要があるのだろう。



確かに、肌を露出する季節になると、明らかにフェイク(ニセモノ)と思われる肌色をした女の子たちをよく見かける。小麦色というよりもニンジン色化した子もいるし、色がところどころ落ちてきてムラになっている子も稀ではない。きれいな白い肌をどうしてあんなものを吹き付けてまでして、茶色やニンジン色にしたいのだろうかと私は理解に苦しむ。

このフェイクタンは、ただ茶色の染料を吹き付けているものとばかり思っていたが、そうでもないらしい。特にビューティーサロンなどでエアブラシの機械を使ってスプレータンの資格を持った人が使う茶色い液体には、肌の角質部分のたんぱく質と化学反応を起こし小麦色にする化学物質が含まれているのだそうな。古くなった角質は自然に取れて行くので、科学反応で小麦色になった肌も1週間もすれば元に戻るということだが、石けんで洗えばすぐ元に戻りますと宣伝しているような商品は、おおむね一日限りの「ニセモノ日焼け」である。

私の娘は、生まれつき浅黒い肌色をしている。日に当たると赤くならず一気に茶色くなる、メラニン色素が多い肌である。本人は、もう少し白かったら良かったのにと思っているようだが、彼女の肌を「美しいオリーブの肌」だとうらやましがる人が大勢いる。(浅黒いと言うと聞こえが悪い。あの色のことをオリーブというのか!)透けるように白い彼女たちの肌こそ美しいじゃあないかと私は思うが、彼女たちの小麦色の肌へのあこがれは強い。

ところが、ここはオーストラリアのメルボルン。私たちの空には、ほぼ常時でっかいオゾンホールが口を開けていて皮膚がんを引き起こす有害紫外線が降り注いでいるので、ホンモノの日焼けは自殺行為に等しい。その点、太陽光によらないニセモノの日焼けは安全だし、メラニン色素を刺激することが無いためシミにもならないという。ああ、今年もまた、多くの女の子たちがニセモノ日焼け商品におこづかいをつぎ込んで、茶色やニンジン色になることだろう。


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