2025年5月8日

毒キノコ殺人事件裁判

このブログで何度か話題にしました「毒キノコ殺人事件」ですが、先週から裁判が行われています。ABC放送のウェブサイトで速報レポートをやっているので、この事件に興味がある私は毎日チェックしています。

最初は小さなニュースだったんですよ。2023年8月の初めでした。ヴィクトリア州南東部の小さな田舎町で毒キノコを食べた方が亡くなったという話だったんです。毎年毒キノコを食べてお亡くなりになる方がいらっしゃいますし、このブログでも何度か毒キノコのことを話題に取り上げていますので、私は「野生のキノコは食べない方がよろしい」という記事を書いたんですけど。

これがどんどんおかしな話になって行き疑惑が深まって、料理を作った女性が逮捕されたんです。

逮捕されたのは、エリン・パターソン(Erin Patterson)容疑者です。どういう事件だったのかを少し説明してみます。


2023年7月中旬、エリン容疑者が元夫のサイモン・パターソンさんとその両親、そして元夫の叔母さん夫婦の5人を昼食に招待しました。それまでエリン容疑者に食事に招待されたことが無かった元夫以外の4人は、突然の招待に驚いたそうです。

エリン容疑者と元夫の関係は破綻していましたが、エリン容疑者と元義父母は良好な関係だったそうですし、叔母さんの夫は教会の牧師をされていて、エリン容疑者がその教会に通っていたので教会の仕事でも繋がりがあったそうです。

4人は突然食事に招待されたことを不思議に思いましたが、喜んで7月29日の昼食会に出席することにしました。

元夫は、元妻の家に行くのはどうしても気が進まなかったので、前日になって出席しないと伝えました。エリン容疑者は非常にがっかりして腹を立て、「自分の重大な健康問題」を伝えるための昼食会だからぜひ出席して欲しいと言ったそうです。しかし、重大な健康問題を伝えるために2週間も前から昼食会の準備をしていたことに元夫は違和感を感じたそうです。

重大な健康問題というのは、エリン容疑者が「がん」と診断されたという話だったんですが、それが嘘だったことはすでに証明されています。

昼食会で出された料理は「ビーフ・ウェリントン」でした。牛肉をマッシュルームで作ったパテで覆いパイ生地に包んで焼いた料理です。この料理に「デスキャップ」と呼ばれる毒キノコが使われていたのです。

下の写真がデスキャップです。いたるところに生えていて、食べても安全なキノコと区別がつきにくく、味は美味しいそうですけど、致死量は20セント硬貨くらいの大きさだそうですから1個食べたらオシマイという毒キノコです。



「ビーフ・ウェリントン」は大きく焼いたものを切り分けて食べる場合が多いですが、この昼食会で出されたものはパスティーのように1人分ずつ個別に焼いたものでした。

「ビーフ・ウェリントン」を食べた4人のうち、元義父母と叔母さんの3人が亡くなりました。叔母さんの夫は数週間に渡る治療と肝臓移植手術によって命が助かりましたので、裁判では証言をされています。

その証言で明らかになったことがいくつかありました。エリン容疑者がゲストの皆さんのお手伝いを拒否して全て自分で盛り付けたこと、ゲストがパントリー(食品やキッチン道具などを保管する小部屋)を見たいと言うと非常に嫌がったこと、そしてお料理が出されたお皿が1枚だけ色とサイズが違っていて、エリン容疑者はその異なる色のお皿に乗った料理を食べたことです。

お料理は大変美味しくて、皆さんデザートが食べられないほど満腹になりました。お母さんは食べ切れなかったのでお父さんが食べてあげたそうです。このお父さんの症状が最もひどかったのですよ。当然ですね。一番たくさん毒キノコを食べたんですから。

その日の夜中にひどい嘔吐と下痢に襲われた4人は、翌朝病院に運ばれます。この早い段階で「デスキャップ」の中毒だと分かっていれば、もっと早くに適切な治療を受けられて命が助かった可能性はあるんですけど。

エリン容疑者は、昼食会の直後にキノコの乾燥に使っていたフードディハイドレーター(食品乾燥機)をごみ処理場に捨てに行きました。どうして捨てようと思ったんでしょうか。この時点では誰も亡くなってはいないんですよ。

下の写真がエリン容疑者が所有していたフードディハイドレーターと同じものです。200ドル以上します。壊れてもいないのに、昼食会の直後にごみ処理場までわざわざ捨てに行った理由は、証拠隠滅としか考えられません。


死者が出て、警察が事故と事件の両方で捜査を始めた時、エリン容疑者はフードディハイドレーターを使ったことは無いと警察には証言しましたが、これが嘘だったことはすぐに証明されました。

ごみ処理場で見つかったフードディハイドレーターには、エリン容疑者の指紋がついていましたし「デスキャップ」の痕跡も残っていました。家電販売店には、エリン容疑者がフードディハイドレーターを購入した記録も残っていました。

ただの食中毒ではなくて、毒キノコが原因かもしれないと医者達が疑い始めた時、医者の一人がエリン容疑者にどんなキノコを使ったのか、どこで手に入れたキノコだったのかと質問しました。

最初は、地元のスーパーで買った普通のマッシュルームだと答えましたが、スーパーで売られているマッシュルームに毒キノコが混じる可能性はゼロであるということが報道されて、今度はアジア食品店で買ったと証言しました。

「手書きの白いラベルが貼ってあった」乾燥キノコだったと言ったんですけど、こうした話が全て嘘だったことは分かっています。

エリン容疑者が野生のキノコ狩りのベテランであることは複数の証言で明らかになっていますし、キノコをフードディハイドレーターで乾燥させていたことや乾燥させたキノコを粉状にしていろいろな料理に混ぜているという話をエリン容疑者自身がSNSに投稿していました。

「ビーフ・ウェリントン」に使ったキノコの出処については話すのを拒否していたエリン容疑者ですが、逮捕後に自分で採って来た野生のキノコだったと認めたようです。

エリン容疑者の弁護チームが、過失致死を認めて故意の殺人を否定する方針なのですよ。いろいろと嘘をついたのはパニックになったせいだったと嘘を全て認めた上で、昼食会のゲストを殺そうと故意に行ったことではなく、これは事故だったと主張しているんです。

それでもおかしな話だと感じずにはいられない点は多いです。

ゲストの4人が病院に運ばれて症状が刻々と悪化して行く中で、エリン容疑者も町の病院には行っているんですよ。自分も同じ料理を食べたし下痢の症状があると言ったんですけど、医者は食中毒と思われる症状を確認していません。心拍数が高かっただけだそうです。

徐々に毒キノコの「デスキャップ」が原因ではないかということが疑われ始め、医者達は同じ料理を食べたと主張するエリン容疑者に致死量のデスキャップを食べた可能性があるので検査を受けるように言うんですが、エリン容疑者はこれを拒否して勝手に病院から出て行ってしまうんです。

病院から姿を消したエリン容疑者を心配した医者がエリン容疑者に何度も電話をしましたが連絡が取れないので、警察も動員してエリン容疑者を探すんですけど、それは殺人容疑を疑われていたからではありません。再び病院に現れたエリン容疑者に、医者は料理を食べた人が他にいないかと質問します。

その頃には、4人のゲストは重篤な状態になってメルボルンの大きな病院に搬送されていました。

エリン容疑者が自分の子供達も残り物を食べたと言うので、医者は大変心配し、子供達を学校に迎えに行って病院で検査を受させるように勧めるんですけど、エリン容疑者はこれも拒否するんです。そんなことをしたら子供達を怖がらせてしまうと言って。

医者は、怖い思いをして命が助かるか死ぬかの選択だと言ってエリン容疑者を説得するんですよ。普通ならね、自分が作った料理を食べた4人が死にかけていて、医者から致死量の毒キノコを食べている可能性があるから検査を受けろと言われたら検査を受けるでしょうし、子供達の命に関わるとなれば急いで学校に迎えに行くでしょう。

子供達はキノコが嫌いなので、「ビーフ・ウェリントン」の残り物からはキノコを取り除いて食べたから大丈夫だと言ったそうですけど。それでも、普通なら心配すると思いますよ。キノコの毒が牛肉やパイ生地に染み込みますからね。自分と子供達は毒キノコを食べていないと知っていたとしか思えません。


まあとにかく、今のところは決定的な証拠が欠けています。殺そうと思った動機です。元夫を殺すことが目的だったのなら、それはまあ分かるんですけどね、元夫は昼食会には来なかったのですよ。

「自分が疑われると思ってパニックになった。だから嘘をついたし証拠を隠そうとした。キノコは自分で採って来たけど毒キノコとは知らなかった。これは悪意のない事故でした。申し訳なかったです」と言えば、殺人容疑で有罪にするのは難しいんじゃあないでしょうか。

エリン容疑者だけが具合が悪くなっていないこと、エリン容疑者だけが色の違うお皿に盛り付けられた料理を食べたこと、昼食会の直後にフードディハイドレーターを捨てに行ったこと、検査を受けるのを拒否したことなど不可解な言動の数々から考えると、故意に毒キノコ入りの料理を食べさせたことは立証出来るかもしれませんけど。

エリン容疑者が日常的に嘘をつき、作り話をすることで他人の注意を引こうとする傾向があったことは明らかになっていますよ。SNSで知り合った人達に、自分が家庭内暴力の被害者であるという話をしていたようですし、がんになったというのも嘘でしたしね。

とにかくいっぱい嘘をつきましたが、嘘をついたことは認めているんですよ。検察はどうやって殺意があったことを立証するんでしょうか。エリン容疑者への尋問が始まると、また新しいことが分かるのかもしれませんが、ゲストを殺したいほどの恨みがあったとは思えないんです。

ちなみに、エリン容疑者の元夫は、離婚する前に原因不明の内臓の病気で入院していたことがありました。3週間も集中治療室にいて、一時は命が助からないと思われるほど重篤な状態に陥ったそうですが、この件でエリン容疑者は元夫の殺人未遂でも起訴されましたが、こちらの容疑は取り下げられています。


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